【カイロ=佐藤貴生】シリアのアサド大統領が支援者である富豪の資産接収に乗り出した。政権に起きた異変の背景には内戦でアサド氏と蜜月関係を築いたロシアの存在があるとも伝えられている。アサド政権を支援してきたロシア、イランを含めた3者の共闘態勢に変化が生じたとの見方が強まっている。
■標的は親類
シリア随一の富豪で、国内最大の携帯電話会社シリアテルを所有するマハルーフ氏は17日、「社長を辞めなければ資産を差し押さえると通告された」とフェイスブックに書き込んだ。アサド政権は同社に許認可料などの名目で少なくとも1億7千万ドル(約183億円)を納めるよう命じた。
マハルーフ氏はアサド氏と同じイスラム教の国内少数派、アラウィ派の出身で、アサド氏の親類。資金面から同氏を長く支援しており、欧米の経済制裁の対象にも指定されている。
イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)は資産接収を指示したのはロシアだと報じた。ロシアは、復興を主導してシリアの経済権益を独占する狙いがある。資産接収は、政権がロシアの求めに応じて復興資金を調達するためだという。
一方のアサド氏は外国が介入する形での復興には消極的で、現状維持を図ってきた。出口戦略を探るロシアとしては、復興を軌道に乗せたいのが本音。同国の意向に沿って動かないアサド氏に対して不満が強まっており、ロシアでは「腐敗体質」「頭痛の種」と批判する報道も出ている。
ロシアはシリア内戦で人的犠牲や出費が膨らんでおり、復興を軌道に乗せて負担を軽減したいとの観測は数年前から出ていた。
■攻撃を黙認
ロシアが復興の枠組みからイランを排除するため、同国にシリアからの撤収を促しているとの指摘もある。英誌エコノミスト(電子版)によると、イスラエルが4月以降にシリア国内の軍事施設を空爆した際、シリアにあるロシア製防空システムS300が作動しなかったと報じた。
イスラエルの攻撃はシリアに駐留するイランやその系列組織を狙ったもので、同誌は、システムを管理するロシア軍が「攻撃を黙認した」との見方を伝えた。
ロシアはシリア復興には欧米の協力が不可欠と認識している。欧米がテロ組織に指定しているイランの影響下にある民兵組織がシリアに残っていれば、幅広く資金拠出を求める上で障害となるのは間違いない。