新型コロナ EU復興基金に導いたメルケル氏の「転換」 高支持率が追い風





記者会見に臨むメルケル独首相=20日、ベルリン(ロイター)

 【パリ=三井美奈】欧州委員会は27日、新型コロナウイルス被害を受けた欧州連合(EU)の経済再生に向け、「復興基金」の草案を示す。独仏首脳が18日に発表した提案がたたき台になる。共同債務に反対してきたドイツが姿勢を一転したことで、EUが危機克服へと大きく動き出した。

 独仏の「復興基金」提案は、EU名義で欧州委が金融市場で資金を借り入れ、感染被害国や産業に交付金として支給する仕組み。EUが共同で借金し、資金調達する新しい枠組みになる。目標規模は5千億ユーロ(約59兆円)で、EU域内総生産(GDP)の約3・5%に相当する。

 メルケル独首相は18日、マクロン仏大統領とのテレビ記者会見で、復興基金は「欧州の結束を強めるもの。EUを未来に添った形にすべきだ」と訴えた。

 EUは4月、総額5400億ユーロの支援策で合意したが、返済義務のある低利融資が中心だった。イタリアやスペインは「債務積み増しは、経済再生の足かせになる」と交付金方式を主張していた。資金調達をめぐっても、両国やフランスが共同債の発行を求めたのに対し、ドイツやオランダは「債務国の借金を肩代わりすることになる」と反対し、対立が続いていた。

 ドイツが共同債務を受け入れた背景には、今月5日のドイツ連邦憲法裁判所の判断がある。憲法裁は、欧州中央銀行(ECB)が行っている量的緩和策について、独政府や連邦議会が適切に関与していないとして違憲性を認めた。ECBの国債買い入れに依存せずに、コロナ対策で必要なEU資金調達の道を探さねばならなくなり、メルケル氏はマクロン氏の主張に寄り添ったとみられている。

 独誌シュピーゲルは、「コロナ対策でメルケル氏の影響力が強まった」ことも追い風になったと分析した。メルケル政権では保守派が共同債務に否定的だったが、今回はほとんど批判が出ていないためだ。感染死亡率を近隣国より低く押さえたことで、メルケル氏の支持率は64%に達した。

 復興基金に対しては、オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデンの4カ国が交付金方式に反対し、「返済義務のある融資にすべきだ」と声明で訴えた。決定にはEU加盟国の合意が必要で、6月18、19日のEU首脳会議での対立解消が課題となる。基金は2021~27年のEU中期予算に組み込まれる計画で、債務返済にあてるため、環境税やデジタル税の導入案などが取り沙汰されている。



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