熊本県南部を襲った豪雨は「災害弱者」といわれる高齢者らの避難のあり方をめぐり、改めて課題を突き付けた。同県球磨(くま)村の特別養護老人ホーム「千寿園」は訓練を行っていたにもかかわらず、入所者14人が浸水の犠牲になった。専門家は、こうした施設では特に早めの避難行動が必要だと指摘している。
「夜間から未明に災害が発生した場合、限られた人数で入所者を避難させるのは難しい。マンパワーが不足していたのではないか」
防災システム研究所(東京)の山村武彦所長は、千寿園の当時の状況をこう推測した。
千寿園は日本の三大急流・球磨川の支流近くにあり、災害リスクが高いとされる。事前訓練を実施していたというが、施設内にエレベーターはなく、自力歩行できない高齢者たちを職員らが抱えて移動し、時間がかかったとみられる。
災害時に高齢者施設の入居者が巻き込まれた事例は過去にもある。平成28年の台風10号では岩手県岩泉町内の川が氾濫し、高齢者グループホームの入所者9人全員が死亡。これを受け、29年には浸水の恐れがある老人福祉施設や障害者支援施設といった「要配慮者利用施設」で、避難先や移動方法などを定めた避難確保計画の作成と訓練の実施が義務付けられた。
国土交通省によると、昨年3月末時点で全国約6万7900施設のうち、計画を作成したのは35・7%の約2万4200施設。だが、避難訓練を実施したのは約8600施設。都道府県別に計画の作成状況をみると、ワーストは熊本県の2・9%で、岡山県の3・0%が続く。大阪府も9・4%と低い。