起訴状によれば、夫妻は延べ108人に計2900万円余を配った。
それでも買収の意図はなく、罪の意識もないのだという。夫妻の認識は社会通念から大きく乖離(かいり)している。これが政治家の常識だとすれば「政治とカネ」の問題は深刻である。この機に決別を図らなくてはならない。
東京地検特捜部は、公選法違反(買収)の罪で前法相の衆院議員、河井克行容疑者と、妻の参院議員、案里容疑者を起訴した。
法相経験者の起訴も現職国会議員夫妻の起訴も聞いたことがない。起訴事実の買収総額は逮捕容疑を300万円以上も上回った。買収の全容は底が知れない。
昨年7月の参院選広島選挙区をめぐり、すでに多くの首長、地方議員らが夫妻から現金を受領したことを認めている。現金計150万円を受け取った三原市長や、20万円を受領した安芸太田町長は辞職した。広島の地方政治はずたずたである。新型コロナウイルス対策や豪雨対策に政治が力を発揮しなくてはならないときに、この体たらくだ。それだけでも、夫妻の罪は極めて重い。
克行被告は現金受け渡しの事実を一部認めているという。それはそうだろう。受け取った側は微に入り細をうがって現金授受の詳細を話している。
その上で克行被告は買収の趣旨はなかったと否認し、案里被告も「違法な行為をした覚えはない」と話しているのだという。
趣旨については公判で争われることになる。だがそもそも、買収の意図があろうがなかろうが、これだけ多額の現金を多くの地方政治家にばらまく行為が正当化されるのか。
昨夏の参院選で自民党は案里陣営に1億5千万円という破格の資金を支出した。克行被告側はこれがばらまきの原資となったことを否定している。
現金に党の印やサインがあるわけではないが、通常の10倍ともされる破格の支出の意図と、その使い道については、自民党が詳細に説明するのが筋である。夫妻が離党していることは関係ない。
案里被告の公設秘書は先月、同じ構図の罪に問われた広島地裁の公判で連座制の適用対象となる有罪判決を受けた。克行被告も同じ選挙の総括主宰者として罪に問われる。もはや夫妻が国会議員の座にとどまる必要はない。