17歳の少年はなぜ祖父母を殺害したのか。公開中の「MOTHER マザー」(大森立嗣(たつし)監督)は実際に起きた事件を下敷きに、事件の背後にあった複雑な母子関係に焦点を当て掘り下げる。母親を演じる長澤まさみ(33)と、内縁の夫役の阿部サダヲ(50)に話を聞いた。(石井健、写真も)
三隅秋子(長澤)は、日々をふらふらと生きている。息子の周平(奥平大兼(だいけん))に盗みをさせることもいとわない。「何か悪いことあります? 自分の子ですよ」。吐き捨てるように言い放つ。
長澤は、なぜこの母親の役を引き受けたのか。
「私も一人の女性。いつかは子供をもつ立場になるかもしれない。人ごとに感じなかった。また、母親の存在の濃さを考えさせるこの役に魅力を感じました」
映画やドラマに多忙なトップ女優。23日には、「コンフィデンスマンJP プリンセス編」の公開も控えている。人気ドラマの映画化の第2弾だが、そちらで演じるのは、はつらつとした女性詐欺師。一方、秋子では、長澤は死んだ魚のような目で強烈な印象を放つ。
「演じる上での熱量はどちらも同じ。役の思いがちゃんと映るよう、必死に演じます」
「怖いんだよね」
そう秋子を評する阿部も売れっ子。人気劇団「大人計画」の一員で、NHK大河ドラマ「いだてん」第2部の主人公も記憶に新しい。今回演じるホスト、川田遼については「まったく、いいやつじゃない」とバッサリ。ある人物を恫喝(どうかつ)する場面での遼は、狂気すら帯びている。「あれは、ちょっとどうかしていますよね」
意外だが、2人はこれが初共演。阿部が、長澤について感心したように話す。
「ちゃんとしている人だなって思った。ちゃんと役について悩んでいた。なんでも楽々こなしている人ではなかった」
長澤は「阿部さんは、若い共演者に譲ろうとする心が一切ない」と笑ってから続ける。