【記者発】凄惨な虐待 なぜ、なくならない 大阪社会部・山本祐太郎





梯沙希容疑者と稀華ちゃんが暮らしていたマンションの居室。ベランダにはものが散乱していた=東京都大田区蒲田

 東京都大田区の自宅マンションに長女(3)を放置して死亡させたとして、母親(24)が保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された。母親は「子育てに疲れた」などと供述。1週間以上にわたって鹿児島県へ旅行し、知人男性に会っていたという。

 一報を聞き、10年前の事件を思い出した。平成22年7月30日、大阪市西区のマンションの一室で、3歳と1歳の姉弟が死亡しているのが見つかった。23歳だった母親は幼いわが子を置き去りにし、2カ月近くも遊び歩いていた。

 当時、大阪府警捜査1課担当としてこの事件を取材したが、捜査関係者から聞いた現場の状況が忘れられない。

 衣服を身に着けず、寄り添うように横たわっていた2人。周囲はオムツや空き容器などのごみがあふれていた。何とか外に出ようとしたのか、食べ物を探したのか、壁や冷蔵庫には2人が触ったような跡があった。

 その大量のごみを捜査員らは丹念に調べた。破れたおにぎりの包装紙をつなぎ合わせるなどし、近くのコンビニの販売記録と照合。気の遠くなるような作業の繰り返しが、一家のこの部屋での暮らしぶりを浮かび上がらせた。

 当初、食べ物を買っていたのは2日に1度ほど。それが1週間に1度程度になり、次第に間隔が空く。そして、6月上旬を最後に途絶えた。殺人罪に問われた母親は公判で殺意を否認したが、裁判所は「死亡させる危険性が高いと認識していた」と殺意を認定し懲役30年の刑が確定した。

 姉弟の遺体が発見されてからちょうど10年。この間、児童相談所(児相)の虐待対応件数は3倍以上にも増えた。ただ、単に虐待の発生が多くなったのかというと、そうとはいえない。近隣住民らの通報に加え、警察が積極的に家庭に介入するようになり、児相への通告件数は以前から格段に増えた。対応件数の増加は社会の虐待に対する敏感さの表れともいえる。

 それでも、凄惨(せいさん)な事件は後を絶たない。児相や自治体の怠慢、周囲の支援不足…。幼い命が失われるたび、さまざまな課題が指摘されるが、対症療法的な観点にとどまってはいないか。悲劇を繰り返させないためには今一度、本質的な原因をあぶり出し、根本から解決を図る必要がある。

【プロフィル】山本祐太郎

 平成16年入社。大津支局、神戸総局を経て、大阪社会部で事件・事故や行政取材などを担当。現在は大阪府警担当キャップ。



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