ロシア軍の致命的弱点:ドニプロ川渡河能力の限界とウクライナ戦線の戦略的課題

ロシア軍は2022年5月、ウクライナ東部のシベルシキー・ドネツ川での渡河作戦を試みた際、ウクライナ軍の攻撃により1個大隊戦術群が壊滅的な打撃を受けた。その後、新たな戦術や技術を導入し、一部の戦線で前進を遂げたものの、河川渡河能力の改善は遅々として進んでいない。この克服できない課題は、ロシア軍にとって致命的な弱点となり、今夏の攻勢においてもいくつかの重要な作戦を停滞させる主要因となっている。特に、南部ドニプロ川や東部オスキル川での渡河作戦は、最近も繰り返し失敗しているのが現状だ。

ヘルソン州ドニプロ川右岸からロシア軍部隊に砲撃を行うウクライナ海兵隊。ロシア軍の渡河作戦の困難さを物語る光景。ヘルソン州ドニプロ川右岸からロシア軍部隊に砲撃を行うウクライナ海兵隊。ロシア軍の渡河作戦の困難さを物語る光景。

渡河作戦:ロシア軍の克服できない課題

ロシア軍はウクライナ侵攻以来、様々な戦術的課題に直面しているが、中でも渡河作戦の遂行能力は依然として脆弱性を露呈している。最新の装備や兵力増強にもかかわらず、大規模な部隊や装甲車両を敵の支配下にある河川を渡って展開する能力は限定的だ。この根本的な問題は、部隊の機動性を著しく阻害し、攻撃軸の多様化や迅速な戦略的転換を困難にしている。結果として、ウクライナ軍は天然の地形を最大限に活用した防御線を構築し、ロシア軍の進軍を効果的に阻止している。

天然の要害「ドニプロ川」を巡る攻防

ウクライナを南北に縦断する大河ドニプロ川は、特に黒海に注ぎ込む河口に近い南部ヘルソン市周辺で、ウクライナ戦争における戦略的要衝となっている。ロシア軍は2022年2月の全面侵攻直後に両岸を制圧したが、ウクライナ軍の反転攻勢により同年11月には西岸を奪還され、ヘルソン市からの撤退を余儀なくされた。2023年10月には、ウクライナ軍がドニプロ川を渡って東岸に橋頭堡を築いたものの、後に撤退を強いられ、西岸で強固な防御態勢を敷いている。

以来、ロシア軍はヘルソン市とその周辺地域を再び奪取するため、繰り返し西岸に足場を築こうと試みてきたが、その多くは失敗に終わっている。2024年3月には、ロシア軍の偵察部隊がアントニウシキー橋付近で渡河を試みたものの、乗っていたボートがウクライナ軍の攻撃を受けて撃退された。さらに同年12月には、ドニプロ川河口付近の島々を制圧する目的で、300隻ものボートを投入した大規模な強襲作戦を仕掛けたが、これもウクライナ軍の砲撃やドローン攻撃により撃退された。これらの失敗は、ロシア軍が未だ大規模な渡河作戦を成功させる技術的・戦術的基盤を確立できていないことを示している。

最新戦況:ドニプロ川西岸での攻勢とウクライナ軍の防御

ロシア軍は現在の攻勢の一環として、ヘルソン市を含むドニプロ川西岸地域の再占領に向けた動きを再び活発化させている。ウクライナ海兵隊第30海兵軍団は6月、ロシア軍がドローンや電子戦の支援を受けながら、西岸側や河口付近の島々に対して連日攻撃を仕掛けていると報告している。しかし、ウクライナ軍は引き続きこの地域を火力で優勢に抑え込んでおり、直接射撃や調整された砲撃、ドローン攻撃によってロシア軍部隊の上陸を阻止し続けている。

結論

相当数の兵員や装甲車両を対岸に安全に送り込む能力がなければ、ロシア軍がドニプロ川西岸で意味のある前進を果たすことは不可能だろう。渡河作戦の困難さは、ロシア軍の戦略における重大な足かせとなっており、ウクライナ戦争の長期化と膠着状態の一因となっている。この弱点を克服できない限り、ロシア軍がウクライナ南部戦線で決定的な勝利を収めることは極めて困難であると見られる。

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