日産自動車が28日に令和3年3月期の連結最終損益が2年連続の巨額最終赤字になるとの見通しを示したのは、新型コロナウイルス感染拡大の収束がみえない中での経営再建の難しさの表れだ。内田誠社長は巨額の赤字予想について「ある程度見込んでいた」と述べたが、前会長のカルロス・ゴーン被告時代の負の遺産の解消は容易ではなく、中期経営計画の初年度は厳しい経営判断が続く。
「自らの努力でできるコスト削減は着実に実行する。収益は出せると確信している」。内田氏は28日のオンライン記者会見で、5月発表の中期計画の目標達成を危ぶむ質問に自信をもって答えた。
計画では固定費を平成31年3月期比で3千億円削減する。営業利益率(売上高に占める営業利益の割合)は令和4年3月期に2・0%以上、6年3月期に5・0%以上-といった目標値を掲げる。このうち固定費削減は今年4~6月期決算ですでに300億円以上の増益効果があったといい、「今年度に1500億円超を実行する」とした。
再建のカギとして「1年半で12車種投入」と打ち出した新型車戦略も遅れは出ていないとする。実例として日本では、3月に投入した軽自動車「ルークス」や、独自の電動化技術を搭載した6月発売のスポーツ用多目的車(SUV)「キックス」で、市場占有率が「大きく伸びた」(アシュワニ・グプタ最高執行責任者=COO)という。
一方、グプタ氏は「台数優先」政策が収益構造悪化を招いたとの反省を念頭に、経営の基準を「台数」から「価値」に移したと強調。コア市場である米中では販売体制見直しで1台当たり売上高を改善させており、米国では700ドルアップしたという。内田氏は中期計画の有効性が「実証された」とし、「輝ける日産復活へ妥協せず取り組む」と強い言葉も口にした。
ただ、感染拡大が収まる傾向はまだ見えず、需要回復が想定通り見込めなければ、赤字がさらに下振れするリスクも消えない。中期計画発表時に「一番の課題」とした資金繰りも、追加調達をしたり700億円の社債を発行したりと、懸命の手当てに追われる。
新型車投入も需要全体が低迷する中では難しさを増す。「市場によって異なる回復スピードに合わせ、動向をよくみながら適切なタイミングで日々、計画している」(内田氏)といい、緊迫した経営判断が続く。(今村義丈)