日本の少子化の主要因は、出生率そのものの低下ではなく、婚姻数の減少にあると分析されています。結婚した夫婦が生む子どもの数に大きな変化がないことから、未婚化が進んだことが直接的に出生数の減少につながっていると言えます。この正確な認識を前提に、なぜ未婚化が進んでいるのかを掘り下げると、特に男性において、経済力と結婚の間に存在する壁が年々厳しくなっているという事実が見えてきます。しかも、この経済的な壁はここ10年間で顕著に拡大しています。
経済的な課題に直面する個人を象徴する後ろ姿
男性未婚化を阻む経済力の壁
男性の結婚、特に初婚において経済力が重要視される傾向は以前から存在しましたが、そのハードルは上昇の一途をたどっています。かつては「結婚の300万円の壁」という言葉に象徴されるように、年収300万円程度があれば平均的に結婚が可能であった時代もありました。しかし、現在の状況は大きく異なり、年収300万円台では結婚相手として選ばれにくく、この層の未婚率が増加しています。
年収帯別に見る未婚率の上昇とその集中
就業構造基本調査に基づき、男性の平均初婚年齢帯である30歳から34歳の年収別未婚率を、2012年と2022年の10年間で比較分析すると、この経済的な壁の現状が明確になります。全体的に未婚率は上昇していますが、特に増加率が大きいのは年収200万円から400万円の層です。具体的には、年収200万円台から300万円未満の層で未婚率が約15%増加し、年収300万円台から400万円未満の層で約13%増加しています。対照的に、年収600万円以上の層では、全体の未婚率増加傾向と比較して、ほとんど未婚化は進行していません。このデータは、未婚化の進行が、特にこの中間年収層に集中していることを示唆しています。未婚人口のボリュームゾーンもこの年収帯に属しており、中間層の未婚化が全体の未婚化を強く牽引している状況です。
30-34歳男性の年収帯別未婚率の10年間(2012年と2022年)の比較を示すグラフ
「結婚の壁」インフレと現実的な希望年収
かつての「結婚の300万円の壁」が実質的に上昇し、「結婚の壁のインフレ」とも言える状況が未婚化をさらに推し進めています。こども家庭庁が実施した「2024年若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」では、25歳から34歳の未婚男性に対し、自身の実際の年収と結婚を考えられる希望年収を尋ねています。その結果、未婚男性の実際の年収中央値が320万円であるのに対し、結婚を希望する上での年収中央値は477万円と大幅に跳ね上がっています。興味深いことに、同年代の既婚男性の実際の年収中央値は468万円であり、未婚男性が抱く結婚に対する希望年収は、決して非現実的なものではなく、実際の既婚男性の平均的な年収レベルとほぼ一致しています。これは、結婚に必要な経済的要件に対する未婚男性の認識が、現実の結婚市場の要求と乖離しているわけではなく、自身の現状の経済力がその要求水準に満たないことを示しています。
まとめ
日本の少子化の根源には婚姻数の減少があり、特に男性の中間年収層における未婚率の増加がその大きな要因となっています。年収200万円から400万円の層を中心に、過去10年間で経済的な理由による「結婚の壁」は顕著に高まり、「結婚の壁のインフレ」とも呼べる状況が生じています。未婚男性が結婚に求める希望年収は、実際の既婚男性の年収レベルと近く、彼らの現状の経済力との間にギャップが存在することが、未婚化、ひいては少子化の一因となっている現状がデータからも裏付けられています。
参考文献
- 就業構造基本調査
- こども家庭庁「2024年若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」