【モスクワ=工藤武人】新型コロナウイルスの累計感染者数が約220万人に上るロシアが、医療崩壊の危機に直面している。感染拡大は全土で深刻化し、専用病床の占有率は全国平均で約8割に達する。プーチン政権は医療関係者への情報統制を強めている。
ロシア政府は27日、1日あたりの新規感染者数が2万7543人で、過去最多だったと発表した。死者も496人増え、累計死者数は3万8558人となった。
8月には新規感染者数が5000人前後に一時落ち着いたが、10月頃から状況が悪化した。タチヤナ・ゴリコワ副首相(感染症担当)は24日、専用病床の占有率が全国平均で78・2%に上ると発表した。連邦を構成する州や共和国などの半数以上が平均を上回り、90%超の例も6か所あるという。
ロシアの医療体制は新型コロナの流行前から、プーチン政権が旧ソ連型の肥大化した医療の効率化を急いだ影響で脆弱(ぜいじゃく)さが指摘されてきた。西部サンクトペテルブルクは緊急増床を進めるが、25日時点で約1万床のうち空きベッドは約1割にとどまる。モスクワでも一般病棟の廊下や待合室で感染者が待機しているとの報道がある。
地方の状況はさらに厳しい。独立系インターネットメディア「メドゥーザ」によると、中南部アルタイ地方では9月末の段階で専用病床の占有率が97%に達した。医療関係者の感染も相次ぎ、よほど深刻な症状でない限り新型コロナの検査をしないという。地元知事は10月末、「ウイルスによる絶え間ない攻撃を受け被害者が増え続ける。戦場のようだ」と述べた。
西シベリア・オムスクでは10月下旬、コロナの患者受け入れを断られた救急車の運転手が抗議のため地元保健当局に乗りつけた。バイカル湖に面したシベリアのブリヤート共和国では救急車を要請する住民からの電話が急増し、到着に「数日かかる」例もあるという。
露保健省は10月末、地方の医療当局を通じ、「誤った情報の流布を避ける」との名目で、医療関係者に新型コロナに関する発言を控えるよう指示した。感染を拡大させた場合、医療関係者に罰則を科す法律もあり、感染の全容把握は難しい。
プーチン政権は自国産ワクチンの接種開始で国民の不満を和らげたい意向だ。ワクチン製造は遅れており、大量接種の開始時期は当初予定の10月から来年1月以降にずれ込んでいる。