人質を取って銃を持った男が立てこもる民家に突入する警察官=28日午前、埼玉県ふじみ野市
閃光(せんこう)弾を放って室内に突入した捜査員が目撃した光景は異様だった。
28日に容疑者が逮捕された埼玉県ふじみ野市の人質立てこもり事件。踏み込んだ一室で倒れている医師が発見されたほか、そばのベッド上には散弾銃と女性の遺体、隙間に身を潜める容疑者の男が見つかった。
【図解】民家突入時の様子
殺人未遂容疑で逮捕された住人の渡辺宏容疑者(66)。約3年前、事件現場に母親(92)と移り住み、車いすを押して散歩するなど看病を続けていた。
事件の第一報は27日午後9時15分ごろ、「男性が倒れ込んでいる」との近隣女性からの通報だった。男の怒鳴り声の後、鳴り響く発砲音を多くの人が耳にした。人質となったのは、前日に母親の最期をみとった鈴木純一医師(44)。この日は他のスタッフと共に呼び出されて事件に巻き込まれた。
県警は359人を現場周辺に動員。周辺住民を避難させるとともに、捜査員が交渉に当たった。渡辺容疑者は複数回の電話での説得に対し、「(鈴木医師を)救出したい」「動かない」などと精神的に不安定な様子を示し、そのうち応答しなくなった。
発生から約11時間後の28日午前8時ごろ、救出のため複数の捜査員が鍵を破壊し、閃光弾を放って室内に突入。玄関脇の6畳間の和室で、鈴木医師が胸を銃撃されてあおむけに倒れており、そばのベッド上には母親の遺体と散弾銃が。渡辺容疑者はベッドと掃き出し窓の狭い隙間に身を隠しているのが見つかり、身柄を確保された。
県警捜査1課の佐藤勝彦課長は同日午後の記者会見で、「被害者は当初から銃撃を受けて重篤な状況だったと思われるが、生存しているとの想定の下で交渉を続けていた」と明かした。「できるだけのことはやった」としつつ、「結果的に亡くなったのは残念だ」と無念さをにじませた。