「行き過ぎたDEI」に在米日本人も困惑?民主党政策が招く米社会の亀裂

近年、アメリカ社会では「多様性、公平性、包括性」を意味するDEIへの反発が強まっています。早稲田大学教授で政治学者の中林美恵子氏は、在米日本人を含むマイノリティですら、行き過ぎた平等の推進違和感を抱き始めていると指摘。本稿は、中林氏の著書『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(辰巳出版)の一部を再編集し、理想を掲げた民主党政策が、米社会にどのような影響を与えているかを探ります。

アメリカ社会で高まる「DEI」への反発

「ダイバーシティ(Diversity)」「エクイティ(Equity)」「インクルージョン(Inclusion)」の頭文字を取ったDEIは、多様な人材の活用、公平な機会の提供、そして誰もが受け入れられる包括的な環境づくりを重視する考え方です。しかし、アメリカではこのDEI推進が一部で「行き過ぎた」ものとして、強い反発を招いています。特に、共和党支持者を中心に、能力主義を損なう、逆差別につながるなどの批判が噴出しています。

在米日本人から見た「DEI」の違和感

中林教授は、トランプ大統領誕生2カ月後の2025年3月にサンフランシスコを訪れた際、在米日本人から驚くべき本音を聞いたと語ります。早稲田大学卒業生の組織「稲門会」の地元会長を務める日本人女性は、アメリカ人と結婚し長年生活している民主党支持者であるにもかかわらず、現在の民主党政策、特に「インクルージョン」の推進には行き過ぎを感じていると述べました。

異なる背景を持つ人々が活発に議論する様子。米社会における多様性と包括性を象徴異なる背景を持つ人々が活発に議論する様子。米社会における多様性と包括性を象徴

アメリカ社会において日本人マイノリティであり、公平性包括性を重視するDEIは本来、彼らにとって望ましいはずの政策です。それにもかかわらず、「行き過ぎた」施策には違和感を抱くというのです。これは、有権者の持つバランス感覚が、建前と現実の間で揺れ動いていることを示唆しています。

民主党政策が引き起こす支持基盤の地殻変動

この在米日本人女性の意見は、アメリカ政治における民主党と共和党の支持基盤激烈な地殻変動が起きていることを物語っています。かつてマイノリティの圧倒的な支持を得ていた民主党が、その理想を追求するあまり、一部のマイノリティ自身からも「行き過ぎた」と捉えられるようになっているのです。カリフォルニア州のような民主党の強い地域でさえ、こうした声が上がることは、民主党政策が意図せずして、差別を許容するような空気や社会の亀裂を生み出す「反動」を引き起こしている可能性を示唆しています。

結論

DEI推進は、より良い社会を目指す上で不可欠な要素ですが、その「行き過ぎ」は思わぬ反発や社会の分断を招きかねません。在米日本人のケースは、理想を掲げる民主党政策が、複雑なアメリカ社会においていかに繊細なバランスを要するかを浮き彫りにしています。この地殻変動は、今後のアメリカ政治の行方を左右する重要な要素となるでしょう。


参考文献

  • 中林美恵子 (2025). 『日本人が知っておくべきアメリカのこと』辰巳出版.