熊本産の表示で福岡市内のスーパー店頭に並んでいたパック入りのアサリ=1日(写真の一部を加工しています)
輸入アサリの「熊本県産」偽装問題で、正規の熊本県産と外国産の平均単価に1キロ当たり400円程度の価格差があることが4日、県への取材で分かった。この「利ざや」は年100億円を超える計算になり、偽装ビジネスの温床となっていた可能性がある。県は実態把握を急ぐ方針だが、「法の隙間」が抜け道となり、困難も予想される。
【図解】アサリの平均単価の推移
県によると、水揚げ地で取引される「浜値」の平均単価は2017年以降、1キロ600円程度の県産アサリに対し、輸入ものは同200円前後で推移する。過去10年間の輸入量は3万トン台~4万3千トン。20年の3万5千トンで単純計算すると、輸入ものは年間70億円だが、県産は同210億円で、利ざやは140億円に上る。
農林水産省の昨年10~12月の調査では、県産として販売されていたアサリの大半が外国産だった可能性が高いことが判明。産地偽装の疑いがあるアサリの8割程度が県を経由せずに流通していることも分かっている。県には今月3日時点で293件の情報提供や意見があり、「アサリ以外も熊本県産は二度と買わない」と厳しい声もあったという。
国の食品表示の基準で、水産物を2カ所以上で育てた場合、期間が長い方を原産地と表示できる「長いところルール」の存在が実態把握や追跡調査の「壁」となっている。アサリは成育年数が判別しにくい上に、原産国での成育期間や、国内で仮置きする蓄養期間などの証拠書類の保存は努力義務だ。書類の保存期間も「少なくとも食品が消費されるまで(賞味期限)」と定められている。
県の担当者は「アサリの賞味期限は1週間から10日程度。検査に入っても、証拠書類は『廃棄済み』で言い逃れされる」と頭を抱える。
蒲島郁夫知事は4日の会見で「これまでは書類の保存がずさんだった。保存期間の適正化を国に求めたい」と述べた。
(古川努)
■金子農相が法令順守の徹底要請
熊本県産アサリの大半で産地偽装の疑いがある問題を巡り、金子原二郎農相は4日の閣議後記者会見で、「産地表示は非常に大事な問題だ。消費者の信頼を勝ち取らないといけない」と述べた。食品表示法に基づく是正指示なども念頭に、生産や流通に関わる事業者に対し、法令順守の徹底を要請する考えを示した。
8日から県産アサリの出荷を約2カ月間停止する熊本県の措置について「産地偽装を根絶するという強い決意のもとに判断された」と評価。育てた期間が長い場所を原産地に表示できることが偽装の一因として、同県の蒲島郁夫知事が求めているルール見直しには「(所管する)消費者庁とも話し合いをしたい。できるだけ熊本県と協力していく」と語った。
(石田剛)