通行人ら11人が死傷した東京・池袋の暴走事故から今月19日で3年となる。妻の真菜さん(当時31歳)、娘の莉子ちゃん(同3歳)を失った会社員松永拓也さん(35)は、再発防止のための発信を続けてきた。悲しい事故をなくしたいという願いは、若者たちの胸にも届いている。(田村美穂)
突然のメッセージ
家族のアルバムを広げながら語る松永さん(右)と、話を聞く小上屋さん(3日、東京都豊島区で)
「僕は将来、被害者遺族の支援をしたいと考えています」。松永さんのツイッターに男子高校生を名乗る人物からメッセージが届いたのは、事故の発生から1年が過ぎた頃だった。
事故後、松永さんは加害者の刑事裁判の節目に記者会見を開いたり、SNSで心境をつづったりしてきた。遺族としての思いを多くの人に届け、事故を1件でも減らすことが、亡くなった2人の命に報いることになると思うからだ。
突然のメッセージに、最初は「いたずらじゃないか」と思った。だが、事故に関心を持ってくれたのならうれしいと思い、「素晴らしいお気持ちだと思います」と返信した。
メッセージの送り主は、都内の私立高3年生だった小上屋(こがみや)宙恭(ひろたか)さん(19)。数日後、被害者支援を行う「関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」の小沢樹里さん(41)らとともに、パソコン画面越しに対面した。松永さんは、心配して毎日のように家に来てくれた友人たちが心の支えになった経験から、「遺族に寄り添い、その言葉に耳を傾けることが大事」と助言した。
「交通事故は、決して人ごとではない」。松永さんの話を聞いた小上屋さんはそう実感したという。「同世代の若者に遺族の話を聞いてほしい」とオンライン講演会を企画し、SNSで参加者を募った。
2020年夏に初めて開催した講演会には、中学生から大学生まで約50人が参加した。松永さんは、亡くなった2人との思い出や喪失の苦しみを語った。質問が止まらず、予定の終了時刻を2時間半もオーバーした。
「天羽(あまね)プロジェクト」と名付けられた講演会は、あいの会の主催でこれまでに4回開催し、昨年度は国土交通省の後援も得た。小上屋さんは昨春に慶応大に進学し、運営に携わっている。