代表取材に応じる竹川さん夫妻の長男=兵庫県で2022年5月2日午後1時21分(代表撮影)
北海道・知床半島沖で乗客乗員計26人が乗った観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」が沈没した事故で、両親と弟が犠牲になった兵庫県在住の30代の長男が2日、同県内で事故の遺族として報道各社の代表取材に応じた。4人家族で育ち、独り残ったかたちのこの男性は、「とても悔しく残念。運航会社は説明責任を果たしてほしい」と訴えた。
【写真】被害者らが発見された場所
事故では、男性の両親である兵庫県小野市在住の60代夫婦と東京都北区に暮らす夫婦の次男(33)の死亡が確認された。
事故翌日の4月24日午前1時ごろ、北海道警から電話を受けた男性は「最初は交通事故に遭ったのかと思った」と当時を振り返った。乗船名簿に「真面目で寡黙」な弟と「優しくてユーモアがあり笑い合っている」両親の名前があったと知らされ、その後、数日間は一睡もできず、食事も喉を通らなかったという。
27日、北海道で運航会社が家族向けに開いた非公開の説明会に参加した。「一緒に真実を明らかにしたい」との思いから両親が現地で借りていたレンタカーの中に残されていた父の服を着て、無心に質問を繰り返した。
就航判断などの返答に窮する社長の姿を見て「海に詳しくない。安全意識はゼロに等しい」と感じた。他の遺族が質問を重ねる中で「家族を失ったことを受け入れられず、涙が止まらなかった」。
翌日、事故現場近くの海岸に行き、海水に足首を浸した。氷水のような冷たさだった。家族の最期を知ろうと上半身まで漬けようとしたが「痛くて無理だった」。
運航会社の社長から直接、謝罪の言葉を聞いていない男性は「運航会社への不信感が募っている。説明責任を果たしてほしい」と怒りをにじませる。一方で、「皆さんが一刻も早く見つかることを祈っている」とし、一部の乗客がまだ見つかっていない状況をおもんぱかった。
「今後は同じ事故が起きないようにしてほしい」。捜査機関の手で事故の原因究明が進むことを願う。【村田愛】