「天馬」本社
プラスチック製品メーカー「天馬」(東京)によるベトナム公務員への贈賄事件で、東京地検特捜部に在宅起訴された同社前社長・藤野兼人被告(69)らが賄賂を提供したとの報告を一部役員にとどめるため、報告書を二重作成していたことが関係者の話でわかった。賄賂の提供にあたり、商取引を偽装しようとしていたことも判明。特捜部は、藤野被告らが複数の手段で不正の隠蔽(いんぺい)を図ったとみている。
藤野被告ら3人と法人としての天馬は、2017年6月や19年8月、子会社「天馬ベトナム」が現地税関局と税務局から示された追徴課税などを減額させるため、両局職員らに計2360万円相当の現金を提供したとする不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)で起訴された。3人は起訴事実を認めているという。
関係者などによると、天馬ベトナム元社長・吉田晴彦被告(51)は19年9月、天馬本社の前経営企画部長・細越勉被告(57)らに対し、現地公務員に「アンダーマネー(裏金)」を支払ったことをメールで連絡。藤野被告は現金提供の事実を社内回覧に用いる正規の報告書に記載せず、それとは別に作成させた「裏」の報告書に記載するよう指示した。
藤野被告は同年10月、役員を集めて「裏」の報告書について説明。現金提供の事後承認を得たが、この席に監査等委員は呼ばず、「裏」の報告書の内容も知らせなかったという。
このほか、同社は同月、税務局職員への1380万円相当の提供が発覚しないよう、税務局職員から紹介されたコンサルティング会社に対し、コンサル料名目で現金を支払う偽装工作を画策。実際に750万円相当を振り込んだという。
賄賂の提供を巡る詳細な経緯も判明した。
関係者によると、天馬ベトナムが19年8月、税務局から法人税の追徴課税などを示された際、贈賄先と想定していた税務局職員が指を3本立てて現金を要求した。本社の細越被告が支払いを了承し、職員に1380万円にあたる30億ドンを支払うことにした。現金は、天馬ベトナムに勤務するベトナム人社員が会社近くのコーヒー店で菓子箱に入れて渡し、職員から「ありがとう」と言われたという。