
「KAZU I」を移動させる予定だった作業台船(右)(24日午前11時、斜里町沖で)=原中直樹撮影
事故原因究明のためにやっとこぎ着けた引き揚げは振り出しに戻った――。北海道知床半島沖に沈没した観光船「KAZU I(カズワン)」は海面近くまでつり上げられ、24日の引航中に海底に落下した。行方不明者の家族や地元の漁師らからは、不安や落胆の声が漏れた。
【動画】海面近くまで引き上げられ、うっすらと白く見えるカズワン
「今後どうなってしまうのか」「しっかり引き揚げてほしい」
国土交通省によると、落下について不明者の家族にメールで伝えると、家族からは電話で不安を訴える声があったという。
この日の船体の海底落下は、4月23日の事故から1か月以上を経て、午後に引き揚げる予定の数時間前のことだった。
捜索に協力してきた漁師からは、失望の声が聞かれた。カズワンが出航したウトロ漁港のある斜里町で、地元の漁船団で捜索の陣頭指揮を執ってきた男性(68)は「絶対にやってはいけない失敗だった。『何をしているんだ』と言いたい」と語った。
落下したカズワンは海底182メートルに沈んでおり、引き揚げ作業をもう一度行う見通しだ。男性は「犠牲者や行方不明者の家族も、カズワンがどんな船か知りたいと思う。2度目は安全で確実に作業をして、引き揚げてほしい」と求めた。
犠牲者を悼むために斜里町のスポーツ施設に設けられた献花台を訪れた人からは驚きの声があがった。川崎市の男性会社員(49)は「ショックだ。船内には行方不明者の手がかりが残っていたかもしれないのに」と衝撃を受けた様子だった。網走市のアルバイト男性(71)は「引き揚げを期待していた家族もいると思うと残念だ。落下による損傷で事故原因の検証が難しくなるのではないか」と話した。
一方、国土交通省は24日、北方領土・国後島西側の海域でロシア側に4月27日に引き揚げられたリュックサック1個について、乗客の家族に渡すことを明らかにした。