(写真:読売新聞)
【北京=大木聖馬、台北=鈴木隆弘】中国が米下院議長の台湾訪問に対抗して台湾近海で「重要軍事演習」を実施した8月、台湾海峡の中間線を越えた中国軍機は延べ約300機で、昨年1年間の合計の150倍と急増したことがわかった。本紙が台湾国防部(国防省)の発表データを集計した。8月4~7日に実施された演習の開始日から4日で1か月となる。台湾離島への無人機飛来も相次ぎ、中国の軍事的威圧が常態化している。
中間線は、事実上の中台境界線となってきた。幅約130~410キロ・メートルの台湾海峡では、音速の戦闘機が中間線を越えれば、台湾本島に数分で到達できる。中間線越えは偶発的衝突も招きかねない行為で、昨年は2機のみと年数回程度にとどまっていた。8月3日以降、27、31日以外は中間線越えが連日あり、9月1日にも延べ14機に上った。
台湾国防部が近海で確認した中国軍艦艇も8月は延べ約190隻となった。
また、中国軍は重要軍事演習で台湾東部沖を初めて実弾演習場所に設定し、台湾上空を越えて弾道ミサイルを撃ち込んだ。西側の防衛に重点を置いてきた台湾は、東側の防衛にも力を割く必要に迫られている。
台湾国防部が8月31日に立法院(国会)に提出した中国軍に関する年次報告書は、今回の演習について「台湾海峡の中間線を不明確にしている」と指摘した。中国軍が台湾の東部、南東部沖にも活動範囲を広げ、「台湾の防衛作戦範囲を狭め、軍事的威圧を強めている」と警戒感を示した。
台湾の離島・金門島周辺では中国からとみられる無人機の飛来が相次ぎ、9月1日には台湾軍が民生用無人機を撃ち落とした。台湾側は、武力攻撃とは判断できない侵害行為である「グレーゾーン事態」と見ており、新たな脅威となっている。米国は海軍艦艇に台湾海峡を航行させるなど、台湾支援の姿勢を鮮明にしている。