8日、タイ東北部ノンブアランプー県ナクランの寺院で行われた子どもたちの葬儀(津田知子撮影)
【ナクラン(タイ東北部)=津田知子】タイ東北部ノンブアランプー県ナクランの託児施設で6日に元警官(34)が銃と刃物で幼児ら多数を殺害した事件は、タイでもとりわけ貧しい地域で起きた。犠牲となった子どもの親の多くは遠く離れた出稼ぎ先で悲報に接した。母親の一人が本紙に心境を語った。
【写真】あふれる涙を抑えられず…犠牲児童を悼む人々
首都バンコクの工場で働いていた女性マニーラット・タッノントンさん(31)は6日午後2時過ぎ、勤務中に父から電話を受けた。次男のチャイヨッ・キッジャルーンちゃん(3)が恋しくなり、「ちょうど3か月ぶりに帰省しようと考えていたところだった」。父から悲報を聞き、言葉を失った。
夫とともに働いていたマニーラットさんは仕事を早退し、車で約9時間かけてナクランに向かった。「息子が亡くなったと初めは信じられなかった」。SNSで拡散する現場の写真をみてあきらめざるを得なかった。両手を上げて横たわる遺体の姿が、次男の寝相そのものに見えたからだ。
実家に到着した翌日夕、遺体を引き取った。額には横一文字に刃物で切りつけられた傷があった。8日朝に夫と現場を訪れ、線香を供えた。「家に戻っておいで」と何度も叫んだ。
次男は、英語や日本語のアニメが好きだった。動画をみながらアルファベットを少しずつ覚えてきていた。「賢くて、何でもよく食べるいい子だった」
事件前夜、次男とビデオ通話をしたことがせめてもの救いだった。たわいのない食べ物の話をした。「生まれ変わってもまた私の子になってほしい」と涙を浮かべて語った。
タイ東北部は農業以外の就職先が少ない。両親が都市で働き、祖父母が孫の育児をすることが多い。タイ国家統計局によると、ナクランを含む東北部の平均月収は約2万1000バーツ(約8万1000円、2021年)で、バンコク首都圏の約半分にとどまる。