
事故前に撮影された人であふれかえるソウルの梨泰院(ロイター)
【ソウル=中川孝之】韓国ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)で156人が死亡した雑踏事故は、5日で発生から1週間を迎えた。事故現場や韓国各地に設置された焼香所では多くの市民らが花を手向け、犠牲者を追悼した。
【写真】折り重なって倒れ、押しつぶされる人たち
韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は5日、ソウル市内で行われた追悼の礼拝に出席し、「花のように美しい青年たちを守ることができなかった。この申し訳ない気持ちは、永遠に私の心を離れないだろう」と述べ、再発防止を誓った。
事故はハロウィーンを前にした10月29日夜に起き、仮装姿の若者らが狭い坂道で折り重なるように倒れ、呼吸停止に陥る人が続出した。20歳代の死者が104人と最多で、外国人は日本人女性2人を含む26人が犠牲となった。負傷者は197人に上った。
25歳の弟を亡くしたソウル近郊京畿道(キョンギド)の男性(34)は本紙の取材に「弟から梨泰院に遊びに行くと聞いて事故当日、小遣いをあげて送り出した。『兄さん、ありがとう』が最後の言葉になった。事故を伝えるニュース番組もつらくて見られない」と漏らした。
事故で人波の下敷きになり、救助されたソウル市内の会社員女性(29)は「もう体は痛くないが、あの日の悲鳴や倒れた人の姿が忘れられない」と心の苦痛を語った。
事故を巡っては、警察の対応に批判が集中している。韓国メディアによれば、事故数日前の地元警察と自治体の会合では、性犯罪の予防や麻薬犯罪対策などが話し合われ、安全対策は議題にならなかった。
尹煕根(ユンヒグン)警察庁長官は事故当時、知人らと地方のキャンプ場におり、電話で事故発生を初めて聞いたのは日付が変わった10月30日未明だった。警察の不手際が五月雨式に明らかになり、野党などから「人災」だとの声が上がる。