カタールW杯の試合で前半のアディショナルタイムが14分あることを告げる電光掲示板
(CNN) 過去には、サッカーの試合時間を従来の90分より短くするよう求める声があった。念頭にあったのは若年層へのアピールだ。この世代は短い時間でコンテンツを楽しむのに慣れている。
ところが開催中のサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会で、人々が観戦する試合はどんどん長くなる一方だ。前後半の最後に第4審判が掲げる電光掲示板で示されるアディショナルタイムは最短でも7~8分と、通常の4~5分を大きく上回る。時には10分を超える時間が追加されることもある。
その結果、開幕からの8試合で終了まで100分を切ったのはたった1試合しかない。
イングランドが6―2でイランに勝利した試合は、トータルで117分16秒かかった。前後半で取られたアディショナルタイムはそれぞれ14分8秒、13分8秒だった。このためイランのメフディ・タレミが102分30秒にペナルティーキック(PK)で挙げた1点は、1966年大会で記録を取り始めて以降、最も遅い時間に決まったゴールとなった。
このほか1―1で引き分けたウェールズ対米国の試合では14分34秒、2―0でオランダが勝利したセネガルとの試合は12分49秒、エクアドルが開催国のカタールを2―0で下した開幕戦は10分18秒のアディショナルタイムがそれぞれ設けられた。
これらの中には、負傷した選手の手当てに時間がかかったケースもある。しかしより長い時間を取るのは、国際サッカー連盟(FIFA)による取り組みの一環だ。FIFAは試合の中で無駄に使われていると思われる時間を長めのアディショナルタイムを取ることによって埋め合わせようとしている。具体的には選手たちがゴールを喜んでいる間や、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)による検証、選手交代が行われている時間などを指す。
現役時代は名審判として活躍し、現在はFIFAの審判委員長を務めるピエルルイジ・コッリーナ氏は、大会前の説明でアディショナルタイムについて、「7~8分」を超える長さになるとの見通しを語っていた。
コッリーナ氏によれば、前回のロシア大会からすでに7~9分程度のアディショナルタイムを取るのは珍しくなかった。審判らは前後半の終わりに加算する時間を厳密に計算し、特定の種類の事象で失われた時間を取り戻すよう求められているという。
同氏は「負傷の手当てや選手交代、PK、レッドカード、ゴールを喜ぶ行為などあらゆる時間を計算に入れる」とした上で、「ゴールを喜ぶのは一方のチームにとって歓喜の瞬間だが、相手にとってはそうではないだろう。そうした行為は1分から1分半続くこともある」「2~3点決まることを想定すれば、5~6分は簡単に失われる計算になる。当該のチームに対しては、そのハーフの最後に調整を行わなくてはならない」と述べた。
試合時間が長くなることを巡っては、元選手や解説者らから様々な意見が寄せられている。
イングランド代表とプレミアリーグのリバプールで活躍したジェイミー・キャラガー氏は長めのアディショナルタイムを好意的に受け止めている。そもそもサッカーの試合には「時間稼ぎが多すぎる」というのがその理由だ。
しかし南米サッカーに詳しいティム・ビカリー氏は、「ボクシングの試合の終わりにさらに数ラウンド戦わせるようなもの」と指摘。4分程度ならともかく9分ものアディショナルタイムは長すぎるとの見解を示した。
その上で、選手たちのプレーの量は現段階で従来の水準を格段に上回っているとし、「あからさまな時間稼ぎの埋め合わせをするのは結構だが、これはやりすぎだ」と主張した。
理学療法士のマット・コノピンスキ氏も、アディショナルタイムの増加に警鐘を鳴らす。試合の日程も過密になる中で、選手のけがが増える恐れがあるためだ。
同氏はCNN Sportの取材に答え、アディショナルタイムが長くなることで肉体的、精神的な疲労が増すと指摘。選手が負傷するリスクは前後半の終わりにかけて増大していくことが知られているとし、より長いプレー時間を要求すればそれだけけがをする危険性も高まりかねないと述べた。
加えて試合の間の疲労回復についても、選手やスタッフには栄養学などの知見を駆使した「より強力な」取り組みが求められるようになるとの見方を示した。