【分析】 ドイツがW杯敗退、世界サッカー界「Bランク」入りの瀬戸際に
フィル・マクナルティ・サッカー担当主任記者、アル・バイト・スタジアム、アル・ホール(カタール)
「サッカーは単純な競技だ。22人が90分間ボールを追いかけ、最後は常にドイツが勝つ」
元イングランド代表ストライカーのゲイリー・リネカー氏がこの印象的な言葉を発したのは、ずいぶん前のことに思える。しかも今回のワールドカップ(W杯)カタール大会は、ドイツにとって屈辱的なものに終わった。それだけにリネカー氏のかつての言葉は、ますます現実から遠ざかったように感じる。
かつてドイツは、主要大会での上位常連国だった。しかしこのW杯では、グループ最終戦でコスタリカに4-2で勝ったものの、得失点差によって大会を去ることになった。日本がスペインに勝利したことが、ドイツの望みを打ち消した。
ドイツが1次リーグで敗退するのは2大会連続だ。2018年ロシア大会でも同じ運命をたどった。
それ以前の16大会では、そうした事態は見られなかった。
それを考えると、ドイツは今、サッカーの「Bランク」チームに転落しそうな危険な状態にあるといえる。
スタジアムでは、たくさんの赤い空席が目立った。今大会の終わりを迎えたドイツ代表がそれを見つめる姿は、痛ましく厳しいものだった。ドイツ代表の運命は、試合終了のホイッスルが吹かれる前にすでに決まっていたからだ。その時点で、ファンの多くはすでに会場を後にしていた。
この夜の試合では、コスタリカがW杯史上、最大の事態を実現しそうになった。少なくとも数分間は。イエルツィン・テヘダとフアン・パブロ・バルガスのゴールで、ドイツのリードをひっくり返したのだ。
くらくらするような3分間、コスタリカが日本と共に決勝トーナメントに勝ち進むかと思われた。
信じられないことだが、ドイツとスペインはこの3分間、そろって出口へと向かっていた。大会開始前にいったいどれだけの人が、この事態を予想しただろうか。
ただ、その状況は続かなかった。ドイツはカイ・ハヴェルツが2得点し、かろうじて秩序を取り戻した。ニクラス・フュルクルクも4点目を追加した。しかし、何の慰めにもならなかった。
ドイツは大会に踏みとどまるために必要だった勝利を手に入れたが、無駄だった。日本がスペインに勝利した時点で、そのことが確実になっていた。
試合終了のホイッスルが吹かれると、ドイツのハンジ・フリック監督は打ちひしがれたような表情を浮かべた。DFアントニオ・リュディガーは肩を落とし、ベテランGKマヌエル・ノイアーは信じられないといった表情で遠くを見つめていた。
ドイツの敗退は、評判と過去の歴史だけに照らせば衝撃だ。しかし、ロシア大会の1次リーグでメキシコと韓国に敗れてグループ最下位に沈んだ時と同様、今大会も結果に文句は言えないだろう。
誇りと歴史あるドイツにとって、この失意はそれほど予想外のことではないのかもしれない。
最近の戦績は、不動だったドイツの評判を少しずつ下げる内容だった。2014年にはアルゼンチンを破ってW杯トロフィーを獲得したチームが、そのわずか4年後にはすでに、かつての無双ぶりに陰りが見え始めていた。
2020年欧州選手権(ユーロ2020)では、ドイツはそこそこの出来だった。目を引く結果を出すことなく、ベスト16でイングランドに敗れた。ドイツの有名な白いユニホームは明らかに、相手をひるませるかつての威力を失っていた。
2021年になると、フリック監督がヨアヒム・レーヴ氏の後を継いだ。バイエルン・ミュンヘンをチャンピオンズ・リーグ優勝に導いたフリック氏は、代表チーム再建の大仕事を任されたのだった。
W杯カタール大会では、日本に敗れて散々なスタートを切った。不利な立場に追い込まれ、スペイン戦では勝ち点1を何とか獲得し、コスタリカ戦に勝利したものの、抜け出すことはできなかった。
■今後のドイツ代表は
ドイツでは、勝つのが当然だという期待感が非常に強い。そのため、今回の敗退を受けて、何がうまくいかず、何が改善に必要なのか、長い点検と審問のプロセスが始まるだろう。ドイツのサッカー界を大きく揺さぶる一大事となるはずだ。
フリック監督とドイツのサッカー関係者は、ユーロ2024の自国開催を控えるだけに、迅速かつ効果的なリハビリを図るだろう。自国のサポーターの前で同じような失敗をすることは、監督らにとってはあり得ないことだ。
ドイツには、19歳のジャマル・ムシアラという素晴らしい若手がいるし、チェルシーのハヴェルツもまだ23歳だ。ただ、これまで数々の成功を支えてきたベテランに、衰えが出始めているように見受けられる。
ノイアーは36歳で、これが最後のW杯だろう。トマス・ミュラーは現在33歳だが、序盤で絶好のヘディングの得点機を逃し、後半に下げられた。マンチェスター・シティのイルカイ・ギュンドアンは32歳だ。
フリック監督にとってW杯での切り札となったフュルクルクは、スペイン戦とコスタリカ戦で得点を挙げた。だが29歳で、RBライプツィヒのティモ・ヴェルナーと、ヴォルフスブルクのルーカス・ヌメチャがけがで離脱したため、やっと代表入りしていた。
27歳のヨシュア・キミッヒは、ドイツの次の発展段階に欠かせない存在だが、帰国してカタールでの失敗から立ち直った後には、厳しい話が待っているに違いない。
ハヴェルツは試合後のインタビューで、解決すべき問題があると示唆。「1次リーグでの敗退が2回と、ベスト16での敗退が1回。これは極めて苦しいことだ」と述べた。
「4年間、すべてがうまくいったわけではなかったと、正直に言わなければならない」
「私たちは1次リーグで2回ノックアウトされた。もう決勝トーナメント(進出が当然)のチームだとは思わない」
フリック監督は、「私たちは敗退した。すぐに立ち直り回復できる。今後を見据え、どのように自分たちの考えを実行できるのか考えていく」と話した。
「W杯の戦いを評定し、違う方向に進まなくてはならない。これが私たちの次のステップであり、すぐに実行する。もう一度、基本に立ち返ることが必要だ」
「私にはかなりの批評力がある。私たちはすべてを検分して判断していく」
ドイツは今大会を通し、持ち前だった守りの堅固さをまったく見せることなく、先制するたび満足していた――というのが結局のところだ。これはサッカーの大会では致命的な組み合わせだ。
ドイツの無敵感はずいぶん前に消え去っており、この2週間はその事実を最終確認するものだったのかもしれない。
ドイツは世界サッカー界の倒れた巨人として、カタールから帰国の途につく。
(英語記事 ’Germany bow out as fallen giant of world football’)
(c) BBC News