ゼレンスキー大統領=AP
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が21日、訪米のためウクライナを出発した。ロシアのウクライナ侵略後、初めて自国を離れたのは、米国に長期的な支援を直接要請するとともに、国外に出てもロシアが狙う政変が起きる可能性はないと判断したとみられる。
ゼレンスキー氏は20日夜のビデオ演説で、訪米については直接触れなかったものの、「ウクライナにとって、この冬と来年を乗り切る上で、極めて重要な週になる」とした上で、「ウクライナ全土に国旗を掲げるために必要な支援獲得」への意欲も強調した。
今回の訪米でゼレンスキー氏は最大の支援国である米国のバイデン大統領や承認権限を持つ米議会に、これまでの巨額支援への謝意を表明しながら、継続的な協力を呼びかけるとみられる。
(写真:読売新聞)
ウクライナでは露軍によるエネルギー施設への集中攻撃が断続的に続き、最近も約2000万人が停電の影響を受けるなど「第2次世界大戦以降、最も厳しい冬」(首都キーウの市長)を迎えている。東部で砲撃戦が激しくなり、一進一退の攻防を繰り広げているが、ウクライナ軍の総司令官や国防相は、露軍が来年1月にもキーウの再攻略を含む大規模な攻撃を計画しているとの見方を示していた。
米国から、米国製高性能地対空ミサイルシステム「パトリオット」が供与されれば、防空能力は向上する。これまで外国に出なかったゼレンスキー氏が訪米に踏み切ったのは、米国との連携を誇示し、ロシアをけん制する狙いもある。
ゼレンスキー氏はロシアが侵略を始めてから、暗殺や不在中の政権転覆を警戒し、オンラインを駆使した戦時外交を展開してきた。3月16日には米連邦議会で演説し、日本の国会でも外国の元首としては初めてオンライン演説を行った。
プーチン露政権は侵略開始後もゼレンスキー氏の暗殺を複数回、試みたとされ、ウクライナ国内にもロシアの「スパイ」が潜伏していると指摘されていた。
ゼレンスキー氏は7月、自国の情報機関「保安局」や検察当局の職員ら60人以上がロシアの侵略に協力した疑いがあるとして、追及する方針を明らかにした。ウクライナ国内はロシアの侵略に対して結束しつつあり、政権転覆のおそれはないとの判断も訪米の背景にあるとみられる。