武器支援もキーウ訪問も実現できない日本、G7を主導する力が欠ける?

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日経新聞は9日「G7議長国として広島サミットを控えている日本は武器提供を行っていないためウクライナ支援に対して消極的に映り、キーウ訪問もG7の中で唯一実現できておらず、議論を主導して外交上の交渉を進める力が欠けている」と指摘した。

武器提供を行っていない日本の立場は消極的に映るというのは相対的なものか思い込みに過ぎないと思う

日経新聞は9日の記事で「日本はG7の議長国で今年5月に広島サミットを控えており、日本が外交力を発揮して『ウクライナを支え続ける』とG7が足並みを揃えて打ち出すチャンスになる。しかし日本以外の国はウクライナへの武器提供を増やし『ロシアを刺激して自国のリスクが高まる恐れよりも民主主義陣営が結束し現状変更を許さないとの立場を鮮明にするのを重んじた』ため、武器提供を行っていない日本の立場は消極的に映り、キーウ訪問もG7の中で唯一実現できておらず、議論を主導して外交上の交渉を進める力が欠けている」と指摘。

武器支援もキーウ訪問も実現できない日本、G7を主導する力が欠ける?

出典:ПРЕЗИДЕНТ УКРАЇНИ

自民党の佐藤正久氏は参院予算委で「台湾有事、日本有事で日本は兵器や弾薬をほかの国に求めないと全然足りない。他国の危機のときはあげず『自分が危機のときはくれ』というのは通じるか」と訴えたと紹介し、欧米のようにウクライナに武器を提供しなければ外交の信頼を損ないかねない見方があると報じている。

岸田首相も参院予算委員会で武器輸出の制度改定について「結論を出していかなければならない」と言明したが、自民党よりも慎重な立場の公明党は制度見直しを明記した国家安保戦略改定から「可及的速やかに」という表現削除を要求、制度改定に関する議論が本格化するのも4月の選挙後になる見通しで「広島サミットで日本が踏み込んだ発言(武器提供に関する何らかの方針)を行うには調整時間が少ない」と指摘しており、国内世論も武器提供について76%が反対(提供に賛成は16%)しているらしい。

武器支援もキーウ訪問も実現できない日本、G7を主導する力が欠ける?

出典:KIEL INSTITUTE FOR THE WORLD ECONOMY ウクライナ支援額(2023年1月15日分までのデータ)

日本政府は2月21日「ウクライナへ55億ドル(約7370億円)の追加財政支援を行う」と発表、これはウクライナに資金を直接提供するのではなく「世界銀行を通じたウクライナへの融資(インフラの復旧など復興支援事業への融資)が返済不可能になった場合、日本が最大50億ドル分まで現金で債務を負担する(朝日新聞)」というものなので「実質的な直接支援は5億ドル」と見られており、数字自体にはインパクトがあるものの政治的がアピールがないまま発表され、しかもバイデン大統領のキーウ訪問とタイミングが被ったため(ウクライナを含む海外からの)に注目度が小さくなってしまった。

日経新聞が「欧米のようにウクライナに武器を提供しなければ外交の信頼を損ないかねない見方がある」と指摘した問題も、バイデン政権は「(ウクライナへの武器支援は)主権に関わるので各国が独自に判断すべき問題だ=どの国も政治的な都合があるので強制するつもりはないという意味」と述べており、武器提供を行っていない日本の立場は消極的に映るというのは相対的なものか思い込みに過ぎないと思う。

武器支援もキーウ訪問も実現できない日本、G7を主導する力が欠ける?

出典:首相官邸 2月24日にG7首脳テレビ会議を行う岸田首相

結局「日本人がウクライナ支援で存在感が小さい」と感じるのは支援額や武器提供を行わないことに原因があるのではなく、欧米流の見せる政治的行動=例えば「ウクライナにとって象徴的な日に首相もしくは政府高官(外務大臣か防衛大臣か)がキーウを訪問して『ウクライナ人に寄り添う姿勢』を世界に示す」といったアピールが伴わないからで、首相の海外訪問を国会に報告する義務(キーウ訪問の日時が事前に漏れる)に関する問題も大騒ぎするほどのことなのか疑問だ。

確かにバイデン大統領の訪問は直前まで秘密にされていたが、全ての首脳が予告なくキーウを訪問している訳ではなく、イタリアのメローニ首相(21日)やスペインのサンチェス首相(23日)のキーウ訪問は事前に発表(本ブログの読者ならご存知だと思う)されている。

武器支援もキーウ訪問も実現できない日本、G7を主導する力が欠ける?

出典:President of Ukraine

もうキーウ訪問に特別な警戒を要する時期は過ぎており、訪問計画がバレたと大騒ぎする国は日本ぐらいかもしれない。

非NATO加盟国でも軍事支援の強化、軍事支援に否定的もしくは消極的だった国でも態度の変化が確認されている

開戦から1年を経過したウクライナとロシアの戦いは益々激しさを増しており、両陣営が春攻勢と表現される「新たな攻撃」を準備しているものの「どちらの攻勢が成功しても戦力が限られいるので『戦争を決定づける勝利』は手に入らない」と言うのが一般的な海外の見方で、西側諸国の当局者は「望む政治的成果が得られるまで何年でもロシアは戦い続ける気だ」と分析している。

武器支援もキーウ訪問も実現できない日本、G7を主導する力が欠ける?

出典:Генеральний штаб ЗСУ

つまりウクライナとロシアの戦いは2023年中に終結する見込みは限りなく低く、NATO加盟国は2024年以降のウクライナ支援を見え据えて武器生産量の引き上げに取り掛かっており、ウクライナの主権や領土保全を支持する非NATO加盟国でも軍事支援の強化が、軍事支援に否定的もしくは消極的だった国でも態度の変化(黙認を含む)が確認されているのが興味深い。

モロッコ政府は公式に認めていないもののT-72(改修費用は米国とオランダが負担)を提供、ロシアとの関係を重視するイスラエルは殺傷兵器や防空システムの提供を拒否し続けてきたが、政権の座に返り咲いたネタニヤフ首相はウクライナに「ミサイルや無人機による攻撃を察知して警告するシステムの提供」を約束。

武器支援もキーウ訪問も実現できない日本、G7を主導する力が欠ける?

出典:Prime Minister of Israel

このシステムはレーダーと電気光学装置を組み合わせたもので、イスラエルメディアは「ミサイル、ロケット弾、無人機の発射を検出し、影響を与える規模や地域を分析して表示させるもの」と説明しているが、要するにカウンタードローンシステムの受動的な部分だけをウクライナに提供するという意味で、やや回りくどいアプローチだが軍事支援の内容(派手さはない)は確実に引き上げられている。

イスラエルと同じようにロシアとの関係を重視するセルビアも「MB-21で使用するロケット弾(射程を20km→40kmに延長したER Grad 2000)をウクライナに輸出していた」と発覚、ロシア側から説明を求められたブチッチ大統領は「セルビアがウクライナに直接提供した訳ではない(カナダ企業がセルビア企業から購入したものをトルコに輸出してウクライナに再輸出したらしい)」と疑惑を否定。

しかし「国民を養う必要があり経済的を発展させなければならない。我々は武器を生産しているのであって踵の高い靴を生産しているわけではない。セルビアは武器を売ることでルールに違反したわけではなく、一旦輸出してしまえば弾薬は戦争が起きている場所に行き着く」とも述べたため、直接供給しないものの「輸出されたものがウクライナに流れ着くのを止めるのは難しい=事実上の黙認状態」と示唆した。

黒海に面するブルガリアはロシアの報復を恐れてウクライナへの武器支援を拒否したが、ペトコフ元首相は今年1月「NATO加盟国を経由してウクライナに武器を供給している。米国、英国、ポーランド、ルーマニアなどの国がウクライナに提供する目的でブルガリア産業界から武器を購入している(ウクライナ移転前提の武器輸出を政府が黙認しているという意味)」と明かしている。

武器支援もキーウ訪問も実現できない日本、G7を主導する力が欠ける?

出典:Ministry of Defense of Ukraine / CC BY-SA 2.0 ブルガリア産業界は旧ソ連製規格の152mm砲弾を製造している

ブルガリアで防衛装備品の輸出入を取り扱うKintex社の元代表は昨年8月「6月末までの約4ヶ月間でブルガリア政府はウクライナに4,200トン以上の武器を輸出した」と明かしていたが、ペトコフ元首相の証言でブルガリアの間接支援が裏付けられた格好と言える。

パキスタンもMB-21で使用するロケット弾を6万発以上(他にも155mm砲弾や小口径弾薬などを提供しているらしい)もドイツ経由でウクライナに輸出、さらに「西側諸国の財政支援」を条件に保有するT-80UDのウクライナ移転(44輌)を提案しているらしい。

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ニュージーランドは小口径の武器や弾薬をウクライナに提供(規模は非常に小さい)しているが、英国が主導するウクライナ軍兵士の国際訓練プログラム「インターフレックス作戦」に教官役としてニュージーランド軍の兵士を120名(当初29名だったが昨年8月増派を発表)も派遣しており、国際訓練プログラムにおけるニュージーランドの貢献度(12ヶ国中4番目の派遣規模)は非常に高いと評価されている。

台湾企業のDronesVisionは60mm迫撃砲弾を8発搭載できる軍事用向けドローンを「Revolver860」をポーランド経由でウクライナに輸出している可能性が高く、この件にコメントを求められた担当者は「ポーランドのバイヤーが同社のドローンを購入しているのは事実だが、このドローンが最終的に何処へ向かったのかは契約上の機密事項に該当するため答えられない」と述べており、台湾の民間団体も「寄付という形式」で小銃などの小口径火器をウクライナに提供、台湾政府もDronesVisionや民間団体の動きを事実上黙認している状態だ。

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非NATO加盟国の中で軍事支援に積極的なオーストラリアはウクライナ侵攻が勃発すると方針を転換、非殺傷兵器に限定していた支援を殺傷兵器に拡大してM777、ブッシュマスター、M113AS4、レーダー、ドローン、各種弾薬や砲弾など提供してきたが、オーストラリアのマールズ国防相とフランスのルコルニュ国防相は今年1月「ウクライナに供給する155mm砲弾を共同で生産する」と発表、最初の引き渡しは2023年の第1四半期に予定(数千発)されている。

さらにウクライナへの軍事支援で期待感が高まっているのが韓国で、1月末にソウルを訪問したNATOのストルテンベルグ事務総長は「韓国にも弾薬提供で協力してほしい。交戦国に武器を提供しないという政策を掲げた国も方針を転換している」と強く要請、韓国政府もロイターに「ポーランドが昨年要請(恐らく4月~5月)した自走砲KRAB(K9の車体を使用)のウクライナ移転にライセンスを発行した」と明かし、米国に155mm砲弾を10万発(最終使用者はウクライナではなく米国)を輸出したと認めた。

武器支援もキーウ訪問も実現できない日本、G7を主導する力が欠ける?

出典:Sejm RP / CC BY 2.0

つまり韓国はウクライナへの軍事支援を侵攻直後に開始していたという意味で、ロイターは「直接的にしろ間接的にしろ、韓国が対ロシア戦への武器供給を公式に認めたのは初めてだ」と報じており、ウクライナのポドリャク大統領府顧問も「韓国政府と武器支援に関する公式の交渉が進行中だ」と明かし、ゼレンスキー大統領も「韓国からの軍事支援」に期待感を示したため海外メディアも韓国の動向に注目。

取材に応じた韓国のハン首相にCNNは「ウクライナが期待している直接的な武器支援を検討しているのか」と質問、これに「我々は今年ウクライナへの支援を1.3億ドルに増やすと決定したが、電力設備や発電機などで支援することを考えている」と答えたものの「殺傷兵器を支援するかどうかはまだ決めていない」と付け加えており、韓国メディアは首相が「まだ」という語句を使用したため「今後の状況次第で政府の立場に変化が起きるかもしれない」と指摘しているの興味深い。

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なぜ韓国に注目が集まるのかは理由があり、韓国は西側陣営最大の砲兵戦力(155mm規格の榴弾砲や自走砲を3,000門以上)を保有しているので韓国軍備蓄には米軍備蓄を超える量の155mm砲弾が眠っている可能性がある。さらに韓国政府は冷戦終結後も「テロとの戦い」ではなく「伝統的な対称戦」に資金を投資し続けたため、欧米諸国が失ってしまった「重装備や弾薬を大量生産するための強固な生産基盤」が維持されており、納期遅れが頻発する武器取引の中で韓国はポーランドの発注分(K2とK9の第二バッチ分まで)を期日までに引き渡している。

米国のように無償提供ではないため「セルビア、ブルガリア、台湾、韓国の支援はただの輸出=金銭目的じゃないか」という見方もあるが、そもそも欧州に所属するNATO加盟国も「ウクライナに提供した武器・弾薬の代金」をEUの基金(欧州平和ファシリティ:EPF)から払い戻されており、ポーランドのモラヴィエツキ首相もウクライナに提供したレオパルト2A4について「補償をEUに申請する」と、ウクライナ支援額がGDP1%を超えたエストニアも「EPFを通じて提供した装備や弾薬の金銭的補償を要求しており1億5,600万ユーロを受ける予定だ」と明かしている。

武器支援もキーウ訪問も実現できない日本、G7を主導する力が欠ける?

出典:KMW ウクライナが購入契約をKMWと締結したRCH155、この購入資金はドイツ政府から出ていると言われている

現在のウクライナは現物を必要としており、交戦国に武器を無償でも有償でも提供してくれる国を必要としているため「通常の取引」でも十分な支援に値する。さらに言えばウクライナが輸入を通じて調達する装備・弾薬の支払いの大半は米独の財政支援(国防予算に組み込むことを目的した資金など)が原資なので、ウクライナが自費負担で購入する分はそう多くない。

日本でも議論が進められているの「いずれウクライナへの軍事支援を開始する時」が来るかもしれないが、ウクライナとロシアの戦いは今後何年も続く可能性が高いので「広島サミットに合わせて発表しなければならない」と焦る必要はなく、財政支援でも人道的支援でもいいので「具体的に何をいつまでに提供するのか(軍事支援ではないので詳細をぼかす必要性がない)」をもっと詳細にアピールしたほうが日本の存在感を高められるだろう。

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参考記事:How Bulgaria secretly armed Ukraine
参考記事:Pakistan offers to transfer 44 T-80UD tanks to Ukraine in exchange of financial assistance
参考記事:Israel promised to provide Ukraine with missile and drone alert system
参考記事:Serbia is unable to control the re-export of its ammunition to Ukraine

 

※アイキャッチ画像の出典:首相官邸

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