
ロシアのプーチン大統領(古厩正樹撮影)
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の反乱から1週間が経過したが、ウラジーミル・プーチン大統領(70)は新たな内紛の〝時限爆弾〟を抱えている。ワグネル創設者のエフゲニー・プリゴジン氏(62)とセルゲイ・ショイグ国防相(68)の確執は、ロシア軍内の「主流派」と「反主流派」の対立に発展していることも浮き彫りになった。ロシアの混乱に乗じて隣国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領(68)が存在感を強めるなど、状況は複雑怪奇だ。
【写真】ベラルーシ東部モギリョフ州オシポビチ郊外で6月30日に撮影されたテントのようなものが並んだ衛星画像
反乱を起こした後、ベラルーシ入りしたとされるプリゴジン氏だが、その後も自身のプライベートジェット機がロシアに戻ったことが確認されるなど不穏な動きもある。
そのプリゴジン氏は1990年代にサンクトペテルブルク市でホットドッグ店などの事業を展開し、地元出身で副市長を務めていたプーチン氏と蜜月関係を築いた。
猜疑心(さいぎしん)が強いプーチン氏は、地元の同市関係者を重用した。大統領就任後には、プリゴジン氏は政府の行事や軍に配食するケータリング事業、水上レストランなどで富を築いて新興財閥(オリガルヒ)となり、「プーチンの料理人」と呼ばれて信頼を勝ち得てきた。
ワグネル創設に資金を拠出し、2014年のウクライナ東部紛争やシリア、リビア内戦などにも部隊を送った。一方で、経営するネット企業がサイバーテロ事件に関与し、16年の米大統領選に干渉したとして米連邦捜査局(FBI)から指名手配された。
ワグネルの乱の際にプーチン氏の名前を出さなかったプリゴジン氏が、名指しで批判を繰り返していたのがショイグ氏とワレリー・ゲラシモフ参謀総長だった。
モンゴル国境に近いトゥヴァ地方出身とされるショイグ氏に軍歴はなく、旧ソ連時代に建築技師として経験を積み、共産党内で昇進した。エリツィン政権下の1994年に非常事態相に就任、災害や事故対応などでメディアも露出も多く、「最も人気のある政治家の1人」とされる。
プーチン政権で2012年に国防相に登用されたが、個人的な信頼関係も出世に影響したようだ。2人でシベリア方面で狩猟や釣りを楽しんだりするビデオや写真が話題を呼んだ。ともにアイスホッケーにも興じている。
英BBCによると、プリゴジン氏はショイグ氏を「長年毛嫌い」していたといい、「ワグネルが高給でロシア軍から特殊部隊の精鋭を引き抜いていた」ことも両者の緊張を生んだと伝えている。
対立は根深く、米CNNテレビは29日、拘束情報のあるロシア軍のスロビキン航空宇宙軍総司令官を含む30人以上の軍や情報当局の高官が、ワグネルの秘密の「VIPメンバー」のリストに名前があったと報じた。
■プーチンにはプリゴジンよりショイグが重要 畔蒜氏が解説
ロシアの外交・安全保障に詳しい笹川平和財団の畔蒜(あびる)泰助主任研究員は「ワグネル単独か、正規軍内部に同調者がいた上での行動だったのかがポイントだ。軍内には『ショイグ―ゲラシモフ体制』に不満を募らせる反主流派があり、幹部がワグネル入りしていた経緯もある。将来的に禍根が残ったとみることもできる」と解説する。
今後のプリゴジン氏とショイグ氏の処遇を受けて、微妙な均衡が崩れる恐れもある。
畔蒜氏は「プーチン氏にとってはプリゴジン氏よりもショイグ氏の方が圧倒的に重要な関係性にある。少なくともウクライナ侵攻中は国防相と参謀総長を交代させるのは難しく、解任はプリゴジン氏の要求をのんだことになってしまうため難しい。一方でプリゴジン氏を即時排除することは、ルカシェンコ氏の顔に泥を塗ることになるうえ、軍内の反主流派の反発も懸念材料になる」と指摘する。
カギを握るのが、プリゴジン氏を受け入れたルカシェンコ氏だ。前出の畔蒜氏は「プーチン体制が倒れれば、ルカシェンコ氏も危うくなる。リスクがあるが、身を守るための判断だったのではないか」と語る。
露紙ベドモスチによると、ルカシェンコ氏は、反乱の原因について、ショイグ氏と、プリゴジン氏の性格が似ていることだと指摘、「彼(プリゴジン)はショイグと同じ性格でとても直情的だ。そしてそれが始まった」と話した。
「プーチンの盟友」といわれるルカシェンコ氏は、反乱収束に一役買ってプーチン氏に貸しを作った。ロシアの戦術核兵器とワグネルの戦闘員も手に入れることとなり、ロシアにもウクライナにも脅威を与える存在となった。
もつれた思惑と人間関係がさらなる混乱を招くのか。