進む仕事の二極化 追いやられる「普通の人たち」

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「ウーバーイーツ」の配達員=東京都新宿区で2020年3月26日、玉城達郎撮影

【写真】「育児も仕事も」

 明治大学経営学部准教授の山崎憲さんは巨大IT企業で起きている変化が社会に大きな影響を及ぼしていると言います。「このままでは国家の維持も難しくなる」と懸念する山崎さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】

 ◇ ◇ ◇ ◇

 ◇サイクルが短くなると

 ――なにが変わっているのでしょうか。

 山崎氏 1980年代から2000年ごろまでの日本の製造業は世界でもっとも効率が良いとされていました。

 当時の製造業では一つの製品のサイクルが4、5年だったので、下請け企業とも中長期的に良い関係を維持しながら生産性を高めていたのです。下請け企業であっても極端に賃金水準が下がらない仕組みがあり、普通に勤めていれば子どもを大学にいかせることができました。

 ところが現在の巨大IT企業はサイクルが極端に短くなり、半年や3カ月になっています。これが大きな影響を及ぼしています。

 ――外部との関係が変わったのでしょうか。

 ◆中長期の関係の重要性が下がり、コストとみなされるようになりました。

 代わりに浮上してきたのが人のつながりを重視し、創造性を発揮する社内の中核という考え方です。わかりやすく言えば短期間で成果を上げるプロジェクトチームです。

 ◇仕事が外部化されている

 ――企業のあり方に変化が起きているのですね。

 ◆総務や人事の仕事がアウトソーシング(外部化)されています。さらに、企業のなかから非正規労働者がいなくなっています。非正規がしていたような仕事を外部化しているのです。

 典型的なのがウーバーなどで問題になっている個人請負です。非正規の問題がなくなったわけではありません。見えなくなっただけです。中核にエネルギーを集中するために、それ以外が外部化されています。

 ◇単純労働も監視される

 ――外部化されても仕事自体はあります。

 ◆外部化された先でどう管理するかの重要性は大きくなっています。そのために監視が単純労働にも導入されます。製造業の現場でボディースーツを着せて、荷物の運搬や移動の際にどれだけ負荷がかかっているかをモニタリングする。自分が好き勝手に動けない。監視下で働かせることが進んでいます。

 たとえば、海外の工場の製造ラインにAI(人工知能)を入れます。不良品を発見したら信号が日本にあるマザー工場に送られます。対応する生産管理技術者は全員が日本にいます。海外の工場にはAIの運用者はいるにしても、労働者は指示通りに動くだけでなにもする必要がありません。

 世界中の工場をどうコントロールするかは、日本にいる技術者が、中核として、プロジェクトを組んで考えるのです。

 ◇監視され、分析される中核

 ――中核で働く側は恵まれていますか。

 ◆中核で働くには、人間同士がうまくつながって意見を言い合うことができるかという協働が焦点になります。

 「協働」というと良く聞こえますが、そんなものではありません。公私の別なく、短期間で成果を出す効率が求められます。

 サッカーでは、ドイツチームがAIを使って選手の動きを細部まで分析し、練習方法を変えたと言われています。企業でも同じことが行われていて、どう効率良く人をつなげるかを分析するためにAIが使われています。

 ――管理されているのですね。

 ◆人とのつながりといってもすべて自由にやっているわけではないのです。自律的に動くことと、監視されて動かされている部分の両方があります。私は「強制された協働」と言っています。

 たとえば会議でどのような話をして、プライベートではどんな話をして、どのようにチームを引きつけるかなどの分析があり、それに基づいて訓練があり、評価されます。

 人と人を結びつけることがテクノロジーとして扱われています。

 ◇公私なく「進捗管理」

 ――非人間的だと。

 ◆あるグローバル企業で、育児休業期間を短くしてくれと言われたことがあります。「ネットがあるから出社の必要はない。プロジェクトは世界中でやっているから転勤の必要もない。いつでも仕事ができる」と言うのです。

 聞きながら、母親は授乳のたび、子どもが泣くたびに2時間おきに起きなければならない。ならば一日中寝ずに働けということかと思いました。

 公私関係なく仕事をしてくれという発想です。その代わりにベビーシッター費用などの手当は出す。労働時間という概念がなくなります。日曜日に仕事仲間とサイクリングに行ってもマラソンに行っても、進捗(しんちょく)管理の対象になるのです。

 年収は高くなるかもしれませんが、ものすごく擦り減る世界です。

 ――その方向に進んでいるのでしょうか。

 ◆協働を監視するマニュアルがたくさん出ています。「プロジェクトのメンバーが安心して発言できるように、公私の別なく心理的安全性を確保できるように」などと書かれています。自発的と言いながら、それが事細かに管理されているのです。

 ウエアラブル(身につける)端末も活用されていて、時計をつけさせられて心拍数や発汗量の記録を取られています。上司との面談で心拍数があがれば「相性が悪い」とされ、睡眠時間が短くなると「この仕事は向いていない」となります。

 ◇人数が多い周辺への政策がない

 ――人数としては周辺の人が多くなります。

 ◆中核は少数でいいので、周辺が増えるのは明らかです。しかし、周辺をどうするかという政策が日本にはありません。

 問題なのは、外部化されると、労働問題として見えなくなるということです。普通に働いている人の多くは外部化されるほうに属するので、大問題です。

 外部化されると所得が下がるという問題もありますが、個人請負とすることで企業は年金や健康保険、失業保険などの社会保険の負担をしなくなります。働く側は低い収入のために費用を捻出できません。国家の屋台骨が崩れる可能性があります。

 ――企業側からみれば関係の無いことです。

 ◆グローバル企業は個別の国に貢献する必要はありません。

 たとえば米アマゾンについて、「最低賃金以上を支払っているが、短時間労働しかさせないために、個々の労働者の年収は生活保護水準を下回る。結果として税金で賄われる生活保護費が米アマゾンのビジネスを支えている」などという指摘があります。

 日本でも起こりうることです。普通に働いているだけでは子どもを大学にやれない、ということになりかねません。根本的な対応をしないと社会が持たなくなる可能性があります。

 ◇国家が維持できなくなる

 ――企業に対応させるのは難しいと思います。

 ◆企業が中核を重視すること自体は当然です。しかし、それによって起こる問題は、社会全体で考えなければいけません。

 あぶれた人たちをトータルでサポートする仕組みが必要です。現在の経済は、たとえ雇用はできたとしても、多くの人に普通の生活をさせることが難しくなっているのです。

 しかもグーグルなどは事実上、独占企業で競争相手がいません。こんなビジネスモデルが10年も20年も続いたら国家は崩壊してしまいます。

 企業は収益を考えますが、国家を支えているのはボリュームゾーンの人たちだからです。

 ――展望はありますか。

 ◆21年に発足したアルファベットワーカーズユニオン(アルファベットはグーグルの親会社の名称)のリーダーのひとりであるウィッタカー氏は、働く側も世界中でつながって対抗するという考え方です。グローバル企業で労働条件を確保しようと思えば1国ではできないからです。

 このやり方でやればきっとうまくいくとまでは言えません。しかし、新しい動きです。

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