岸田首相の「ピンボケ外交」に対抗する二階元幹事長の中国訪問、期待した「太いパイプ」の正体とは

中国が東京電力福島第1原発処理水問題で反日姿勢を露呈し、岸田首相は焦燥感を抱えている

東京電力福島第1原発処理水の海洋放出から2週間が経ちました。周辺海域のトリチウム濃度には異常は見られませんでしたが、中国は処理水を「核汚染水」と呼び、日本の水産物の禁輸措置を続けています。しかし、国際原子力機関(IAEA)などの評価を無視した中国の行動は「反日」的な暴挙と言えます。岸田文雄政権はこの状況に焦燥感を抱いています。岸田首相は東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)首脳会議直前のインドネシアで、中国の李強首相に直接会って理解を求めました。では、なぜ岸田首相は中国に対して姑息な外交を行うのでしょうか。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、岸田首相の「ピンボケ外交」を非難しています。

岸田首相が期待した二階元幹事長の中国訪問は失敗に終わった

岸田首相は、東京電力福島第1原発処理水問題で悪化した日中関係を打開するために、自民党の二階俊博元幹事長の中国訪問に期待していましたが、予想外の事態が起こりました。二階元幹事長の中国訪問により、岸田首相の外交手腕の不備が明らかになったのです。

さて、なぜ岸田首相は二階元幹事長を選んだのでしょうか。

報道によれば、岸田首相は8月30日、自民党本部で二階元幹事長と面談し、「中国と話ができるのは、二階先生しかいない。ぜひ中国を訪問してほしい」と要請したそうです。

この要請には疑問が残ります。「中国と話ができるのは二階氏しかいない」というなら、林芳正外相の立場はどうなるのでしょうか。これでは、岸田首相自身が林氏を「外相失格」と見なしていることになります。

林氏も、二階氏と同じく「親中派」として知られていますが、岸田首相は「親中派度では二階氏の足元にも及ばない」と認識しているようです。林氏にとっては辛い状況です。

とりあえず岸田首相が二階元幹事長に期待したのは「中国と話ができる」という点です。これがいわゆる「太いパイプ」なのです。しかし、このパイプの正体は一体何なのでしょうか。

二階元幹事長の役割は日中のビジネス仲介

二階元幹事長は2015年に観光業界の関係者約3000人を引き連れて中国を訪れ、習近平国家主席と会談しました。さらに、2017年と2019年にも訪中し、当時の安倍晋三元首相から習主席への親書を託されました。こうした経緯からマスコミは「二階元幹事長には独自のパイプがある」と報じてきました。

しかし、2015年の大訪中団が物語っているように、二階元幹事長の果たした役割の本質は「日中間のビジネス仲介」です。日本の業界関係者が儲けるのは当然ですが、中国は日本市場への参入拡大と同時に、二階氏のような政界要人を取り込むことで一石二鳥を狙っていたのです。中国の方が一枚上手だったのです。

そのため、二階元幹事長がパイプとして機能するのはあくまで「中国にとって都合のいい場合」に限られます。現在、中国は経済が崩壊しつつある国内の不満から目をそらすため、処理水問題を利用しています。

中国にとって、二階元幹事長の訪中など何の役にも立たないどころか邪魔になるだけです。中国が対日批判を止めたところで、日本の対中批判は収まるわけではありません。

パイプが重要になるのは、国と国の関係が行き詰まった場合です。その時には、双方の利益を考えられる人物がパイプとなります。

例えば、先日紹介したように、現在アメリカとロシアの間で、米シンクタンクのリチャード・ハース前会長が非公式協議を行い、現状打開を目指しています。

ビジネスの仲介に終始し、中国側の政治的思惑に乗っただけの二階元幹事長とはまったく異なります。

マスコミは「外交の岸田」として宣伝してきましたが、今回の件で、首相本人の勘違いだけでなく、マスコミの薄っぺらさも暴露されました。この混乱劇からはほんのわずかな教訓が得られたに過ぎません。

中国が対日批判の矛を収めた時に、二階元幹事長の訪中を「演出」するようなら、「二階氏はまだ使える」ということでしょう。それが「親中派」の勲章と言えるでしょう。

長谷川幸洋氏について

長谷川幸洋氏はジャーナリストであり、政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説で定評があります。政府の規制改革会議委員なども務めており、著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』で山本七平賞を受賞しています。現在はYouTubeで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」を配信しています。

記事ソース: 日本ニュース24時間