「今年はぼけますから、よろしくお願いします。」そう宣言した87歳の母との日々を、娘であり映像ディレクターの信友直子さんが記録したドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、多くの人の心を打ちました。今回は、映画や著書から、認知症が進む中で見せる母の意外な一面と、それを支える家族の温かいエピソードをご紹介します。
スーパーでの母の意外な行動
ある日、父が食料品の買い物に行くというので、カメラを回しながらいつものように同行することにしました。行き先は、家から少し離れた坂の上にあるスーパーマーケット。近くにもっと便利なスーパーがあるにも関わらず、父は「あそこのレジの子が一番愛想がいいけん」と、頑固にこの店を選んでいました。
店内に入ると、父は慣れた様子で買い物カゴを持って、必要なものを次々と入れていきます。牛乳、ヨーグルト、バナナ、リンゴ、大根…と、どれも重たいものばかり。「お父さん、重たいものばかりだけど大丈夫?」と心配になるほどでした。
スーパーで買い物をする高齢の男性
そして驚いたことに、鮮魚売り場では店員さんに「これはどこのサバですかいの?」と尋ね、「これはノルウェー産ですね」との答えに、「はあはあ、ノルウェーのサバはおいしいけんね」と、まるで専門家のように納得して買い物かごに入れていました。
「お父さん、ノルウェーのサバはおいしいん?私、知らんかったわ」と思わず笑ってしまいました。父のちょっと気取った様子が、まるで母そっくりだったのです。
大量の荷物と父の優しさ
買い物帰りは大変でした。父は後先考えずに、かさばる重たいものを大量に買ってしまったのです。大きな袋2つ分の大荷物を見て、「お父さん、今日は直子は撮影しよるけん、荷物持たれんけど、よう持って帰る?」と尋ねると、「おう、これぐらい平気よ。いつもこれぐらい買うて帰りよるんじゃけん」と、頼もしい答えが返ってきました。
スーパーの買い物袋を持った高齢の男性
認知症の母を支えながら、毎日欠かさず買い物に行く父のたくましさに改めて感動しました。そして、そんな父の姿を見て、母もどこか誇らしげに見えたのは気のせいでしょうか?
認知症は、決して楽しいことばかりではありません。しかし、信友さんの著書や映画からは、認知症を抱えながらも、日々の生活の中で小さな喜びを見つけ、家族の愛情に支えられながら生きていく姿が描かれています。