「御出席」の「御」に取り消し線、宛名の「行」→「様」よりも重要…返信で絶対に忘れてはいけないルールとは


 結婚式の招待状は、「御出席」の「御」に取り消し線を引き、返信用の宛名の「行」を「様」に書き換えなければならない――。そうしたマナーは、どれほど重要なのでしょうか。

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 こうした敬語表現は、新郎新婦側を立てて、自分自身がマナーをわきまえた人間であることを証明する行為です。しかし、必ずしも絶対に守らなければいけないルールではありません。

 もちろん書き換えるに越したことはありませんが、社会人としての心得程度に捉えておけばよいでしょう。たとえ修正を忘れたからといって、新郎新婦の信用を失うことにはならないでしょう。

 なぜなら新郎新婦は、結婚式を成功させて綺麗な思い出を残すのが最優先だからです。自分たちの晴れの舞台を汚さないために、一枚一枚の招待状の宛名書きをわざわざチェックして、「行」を「様」に換えなかった人に目くじらを立てることはないのです。

 実際に、私はこれまで30年以上ウエディング業界に携わってきましたが、新郎新婦からのクレームは非常に少ない。こうした礼儀やしきたりのミスは、当事者が神経質になりがちなものですが、往々にして相手側は気にしていないものです。

 それよりも重要なのは、招待する側の立場を考えて、速やかに出席可否の返信を行い、メッセージ欄に気持ちの込もった一言を添えることではないでしょうか。一つ一つの作法やマナーが正しいかどうかという以前に、相手に不安な気持ちを抱かせず、人生の門出を祝う思いやりを伝えるべきです。

 特に昨今では、結婚式の出欠確認をネットやLINEで完結させる慣習が増え、紙の招待状の存在価値は薄れています。

 それにもかかわらず、紙の招待状の需要はなくならず、若い世代は紙とオンラインを併用している割合が高いです。この現象は、ネットで出席の可否を簡潔に素早く済ませ、紙は思い出や記念として残しておきたいという最近のトレンドを反映したものです。

 オンラインでの出欠確認に関しては、宛名や敬称の書き換えは求められません。そのため、招待状の「御出席」の「御」に二重線を引く風習は、今後薄れていくのではないでしょうか。

 また、ここ最近では、金銭的な事情や人間関係の希薄化からも、結婚式の参加を辞退したい人がZ世代を中心に増えています。こうした場合は必ず理由を添えて断りの連絡を入れましょう。

 参加を断ったあとに、アフターケアを忘れないことも大事です。当日に祝電を手配したり、辞退の連絡に際してお祝いの品を送ったりしましょう。参加する意思があって、今後も関係性を続けたいとメッセージを添えます。

 また、結婚式だけでなく、ビジネスの場においても同様のことが言えるでしょう。ビジネスの手紙をお得意様に送るケースを想定したとき、「行」や「宛」を消して「御中」に書き換えるのがマナーとされていますが、この場合も絶対に守らなければいけないわけではありません。

 たしかに初対面の相手であれば気を遣う必要はありますが、良好な関係を築いている相手であれば、書き換えを忘れる失態で関係性が破綻することはありません。見咎めるのは、手紙を分配する総務部の社員くらいでしょう。

 反対に、あなたが手紙をもらう立場で、送り主が敬称や印字を間違っていたとしても気に留めないことです。

 過度に手紙の書き方の作法を気にすると、相手との人間関係を窮屈なものにしてしまう危険性があります。宛名書きではなく、優先事項の高いスケジュールや内容にこだわることを忘れないようにしましょう。

 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月4日号)の一部を再編集したものです。

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安東 徳子(あんどう・のりこ)
ウエディング研究家、戸板女子短期大学服飾芸術科教授
一般社団法人日本ホスピタリエ協会代表理事、株式会社エスプレシーボ・コム代表取締役、NPO法人TOKYOウエディングフォーラム理事、日本社会学会正会員。著書に『誰も書かなかった ハネムーンでしかできない10のこと』(コスモトゥーワン)、監修に『世界・ブライダルの基本』(日本ホテル教育センター)など。
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ウエディング研究家、戸板女子短期大学服飾芸術科教授 安東 徳子 構成=佐藤隼秀



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