「死に至る病」の代表格と言えば、がん・心疾患・脳血管疾患だが、近年新たに「誤嚥性肺炎」が加わった。日本人の死因第6位にランクインし、死亡者の97%が70歳以上という誤嚥性肺炎は、いまや高齢者にとって3大疾患にも劣らぬほどの大きな死亡リスクとなっている。そんな「死の病」に立ち向かい、10カ所の介護施設で「誤嚥性肺炎入院ゼロ」を達成した口腔ケアのプロが、予防法「舌そうじ」を指南する。本稿は、週刊新潮編『名医・専門家に聞く すごい健康法』(新潮社)のうち、精田紀代美歯科衛生士の執筆箇所を抜粋・編集したものです。
● 誤嚥性肺炎を予防するには 「歯みがき」よりも「舌そうじ」
唾液と一緒に食べカスが、あるいは口の中の細菌が気管から肺へと流れ込み、それが蓄積し、炎症を起こして肺炎に――。
今や日本人の“メジャーな死因”となっている誤嚥性肺炎。近年、とりわけ物を飲み込む嚥下機能が衰えた高齢者にとって、この肺炎は大きな恐怖の対象になっています。
しかし誤嚥と、それに伴う「むせ」は、高齢者に限らず、老若男女誰しもが避けることはできません。「むせるな!」と言ったところで、そんなことは誰にもできないのです。
ならば、誤嚥性肺炎を防ぐにはどうすればいいのか。誤嚥しても肺が菌塗れにならないように、口腔環境を清潔に保っておけばいいわけです。いくらむせを招くような誤嚥をしたとしても、肺に流れ込む“ゴミ”が少なければ、肺が炎症を起こすまでには至らないからです。
すると皆さん、歯みがきを熱心にすることで口の中をキレイに保とうとしがちです。しかし、この“常識”は必ずしも正しいとは言えません。なぜなら、口腔内で細菌が一番繁殖しているのは、歯ではなく舌だからです。つまり、誤嚥性肺炎を予防するために最も有効な口腔ケアは、「歯みがき」ではなく「舌そうじ」なんです。
2009年、増加の傾向が見られていた誤嚥性肺炎の死者数を前にして、厚生労働省は重い腰を上げ、正式に誤嚥性肺炎を減らす対策に乗り出しました。その流れのなかで、歯科衛生士事務所の代表を務めていた私のところにも、高齢者施設での口腔ケア指導という仕事が回ってきたんです。
指導を始める前に、まずは施設の実態を知っておこうと見学に行ったところ、すぐにある異変に気が付きました。
● 百寿者「きんさん、ぎんさん」の舌は 赤ちゃんと同じキレイな肌色
「なんだこの臭いは」
施設に足を踏み入れた途端、悪臭が鼻をつき、気分が悪くなって5分と室内にいられないほどでした。
入居者は高齢者ですから、オムツの悪臭かもしれないとも思いましたが、どうも違うような気がする。ひょっとしたら、これは口臭ではないか。そう思って何人かの入居者の口の中を見せてもらったら、歯はそれほど汚くありませんでした。一方で、とにかく舌が汚れていた。