ウクライナ出身の政治・外交評論家、ナザレンコ・アンドリー氏(30)は、昨年10月に日本に帰化し、日本人となった。しかし、その経験を通じて、日本の帰化制度、特にその審査過程における「思想や政治的側面への軽視」という問題点を指摘している。永住ビザよりも手続きが「簡単」という批判も聞かれるこの制度に対し、ナザレンコ氏は、経済面ばかりが重視され、国家への忠誠心が十分に考慮されていない現状に警鐘を鳴らし、制度の改善と厳格化を提言している。
帰化手続きの実態:動機書は形式的な審査?
ナザレンコ氏は、ウクライナ東部ハルキウ(ハリコフ)の出身で、柔道家の父の影響から幼少期より日本に強い憧れを抱いていたという。その夢を叶えるべく、19歳の時に留学生として2014年に来日。日本語学校を経て群馬県の私立大学を卒業後、貿易会社に正社員として勤務しながら、政治・外交評論家として言論活動を行ってきた。
長年の夢だった日本での生活を日本人として送るため、ナザレンコ氏は昨年1月に帰化申請を行い、10月には許可が下り官報に氏名が告示された。彼の経験した帰化審査プロセスは、まず法務局での事前相談から始まった。この事前相談では、日本語能力を確認する目的もあり、スマートフォンなどの使用が禁じられた中で、自筆で相談に関する書類を記述するよう求められたという。
その後の本申請では、行政書士の助けも借りながら、親族の概要、生計の概要、国籍証明など膨大な書類を提出。昨年6月には面談へと進んだ。この面談において、ナザレンコ氏は、経済面での審査が非常に厳格に行われたと証言する。納税状況や収入を証明する書類は預金通帳と照合されるなど、徹底した裏付け作業が行われたという。しかし、一方で、自身がA4用紙2枚に手書きでつづった帰化の「動機書」については、審査官が「ちら見した程度」で、十分に内容が確認されたようには感じられなかったと述べ、このアンバランスな審査体制に疑問を呈している。
政治・外交評論家のナザレンコ・アンドリー氏。日本国籍取得後のインタビューで帰化制度の課題を指摘する様子。
宣誓書に見る「忠誠」の軽重:日本と米国の対比
ナザレンコ氏は、帰化審査における思想や政治的側面への軽視は、帰化が許可された際に日本政府に提出する「宣誓書」の内容にも表れていると指摘する。日本の宣誓書は以下の通りだ。
《宣誓書 私は、日本国憲法及び法令を守り、定められた義務を履行し、善良な国民となることを誓います。》
この宣誓書は、日本国憲法と法令の遵守、義務の履行、善良な国民となることの誓いを求めるものだが、旧国籍への忠誠の放棄や、日本国家への明確な忠誠を誓う文言は含まれていない。これに対し、米国など一部の国では、帰化申請者が旧国籍への忠誠を放棄し、新たな国への排他的な忠誠を誓う宣誓が求められる場合がある。ナザレンコ氏は、この宣誓内容の違いが、日本の帰化制度が思想や忠誠心をどの程度重視しているかの象徴であると考えている。
日本の安全保障への提言:厳格化と情報開示の重要性
このような経験と分析を踏まえ、ナザレンコ氏は、日本の安全保障の観点から、帰化制度の改革を提言している。彼は、「日本の脅威となり得る国からの帰化は審査を厳格化すべき」だと主張する。これは、国家の安全保障に影響を与えかねない特定の国からの申請者に対し、より詳細な背景調査や思想面での確認が必要であるという考えに基づいている。
さらに、彼は「帰化した人が選挙に出る際は元の国籍を明らかにすべき」とも述べた。これは、有権者が候補者の背景情報を十分に把握した上で投票の判断を行えるようにするための、透明性の確保を求める提言である。ナザレンコ氏の指摘は、単なる手続き論に留まらず、日本の国家としての在り方、そして国籍というものの根源的な意味を問い直すものと言えるだろう。
結論:帰化制度の多角的評価の必要性
ナザレンコ・アンドリー氏の指摘は、日本の帰化制度が経済的側面を重視する一方で、国家への忠誠心や思想といった重要な要素への評価が不十分である可能性を示唆している。彼の経験に基づいた提言は、日本の安全保障、そして国民の信頼を確保する上で、帰化審査がより多角的な視点から行われる必要性を浮き彫りにしている。今後、日本の帰化制度が、単なる形式的な手続きに終わらず、国家としての理念と安全を真に守るための制度として進化していくか、その動向が注目される。