近年、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策として、市役所などの公共施設で撮影・録音を禁止する動きが広がっています。職員のプライバシー保護やSNSでの拡散防止を目的としていますが、市民の権利制限につながる可能性も懸念されています。本記事では、この問題について多角的に考察します。
カスハラ対策としての撮影・録音禁止
カスハラは、職員の精神的負担を増大させ、円滑な行政サービスの提供を阻害する深刻な問題です。栃木県内では、小山市、大田原市、宇都宮市などが庁舎内での撮影・録音を禁止する規則を導入しました。これらの自治体は、職員の肖像権や個人情報の保護、SNSでの拡散抑止などを理由に挙げています。特に、インターネット上での誹謗中傷や個人情報の拡散は、職員にとって大きな脅威となっています。
宇都宮市役所
行政側による録音は、カスハラの証拠保全として認められていますが、市民による録音は禁止されています。これは、音声によっても個人が特定される可能性や、他の来庁者の相談内容が録音されるリスクを考慮した措置です。
市民の権利制限への懸念
一方で、撮影・録音禁止は、市民の権利を制限する可能性があるという指摘もあります。弁護士で元栃木市長の鈴木俊美氏は、「市民の側だけ禁止するのは不公平」と疑問を呈しています。行政側に起因する苦情の場合、市民にとって録音は重要な証拠となる可能性があります。
また、生活保護申請の支援団体「つくろい東京ファンド」の小林美穂子氏は、録音は申請者にとって「自らを守る唯一の手段」だと主張しています。生活保護申請において、自治体による「水際作戦」が行われるケースも報告されており、録音はこうした不正行為の証拠となる可能性があります。
録音禁止の案内板
行政と申請者の間には情報や立場の格差が存在し、録音は弱者である申請者を守るための重要なツールとなる場合もあります。
行政側の対応と今後の展望
これらの懸念に対し、行政側は「迷惑行為を想定した措置であり、公務に支障がなければ担当課の判断で除外できる」と説明しています。適切な運用が求められる一方で、カスハラ対策と市民の権利保障のバランスをどう取っていくかが今後の課題となっています。
行政サービスの質の向上と市民の権利保護の両立を目指し、カスハラ対策に関する議論を深めていく必要があると言えるでしょう。 公共施設における撮影・録音のあり方について、読者の皆様からのご意見をお待ちしております。