日本の教育現場では、教員不足が深刻な問題となっていますが、それと並んで「教師の自腹」という問題も大きな課題となっています。生徒のためにと、自分の財布からお金を出し、授業や部活動に必要なものを補填する先生たちの現状、そしてその背景にある問題点について深く掘り下げてみましょう。
教師の自腹:年間20万円…部活動はタダ働き同然?
東京都内の公立中学校に勤める橋本貴史さん(仮名・30歳)は、4年間教師として勤務する中で、生徒たちに良い環境を提供したい一心で、授業や部活動のために自腹を切ってきました。特に負担が大きかったのは、部活動にかかる費用です。
橋本さんは30人規模のバドミントン部の顧問を務めていましたが、部費は少なく、大会参加費を支払うとシャトルなどの消耗品が買えなくなってしまいます。購入申請の手続きは煩雑で、後精算もできないため、橋本さんは毎月1万円を自腹でシャトルを購入していました。
バドミントン部の練習風景
さらに、大会引率時の交通費や昼食代も自腹、審判資格の講習費や更新料も自己負担でした。公式戦は年に男女それぞれ4回あり、土日が試合で埋まる月もあったそうです。引率した場合、特殊勤務手当として1日4000円が支給されますが、実質的にはタダ働き同然の状態でした。
修学旅行の下見で京都へ行った際には、東京からの往復新幹線代3万円とホテル代1万円を立て替えましたが、宿泊費は自腹だったというエピソードも。教育現場の常識が、一般社会では非常識であることに、橋本さんは後になって気づいたと言います。
年間20万円もの自腹を、「常態化していて感覚が狂っていた」と振り返る橋本さん。過酷な長時間労働で心を病み、現在は休職中。転職を決意しているそうです。
学校会計の闇:不正が起こりやすい構造とは?
教師の自腹問題だけでなく、「学校とカネ」に関する問題は山積しています。学校運営に不可欠な財務を担う事務職員によると、教職員による不正も発生しているとのこと。
福島県で発覚した栄養職員による給食材料費の横領事件は記憶に新しいですが、こうした計画的な不正は稀で、よくあるのは学校の口座管理者が個人になっていることで、「つい魔が差した」というケースだそうです。
これらの不正の温床は、学校の私費会計にあると指摘する声も。私費会計とは主に保護者からの徴収金のことですが、税金から支出される公費会計と比べて管理が不透明な部分が多いと言われています。
教師や校長を含め、教職員は金銭を取り扱うための専門的な訓練を受けていません。財務を担う事務職員も同様です。経理のプロ不在のまま多額の資金を管理する私費会計は、教職員の性善説に頼りすぎていると言えるでしょう。
「子供のため」を優先するあまり、問題が発生することも。例えば、教材を業者に100冊発注したものの、保護者からは98冊分しか集金の見込みがなく、業者に全額を支払えないケース。それでも教師は「子供を優先」し、業者には未納分の支払いを待ってもらう、ということが以前はよくあったそうです。(週刊SPA!編集部取材)
専門家の意見:学校会計の透明化と教職員の負担軽減が急務
教育財政に詳しい専門家、山田一郎氏(仮名)は、「学校会計の透明性を高め、教職員の金銭管理に関する研修を充実させる必要がある」と指摘します。また、「教職員の負担を軽減するために、部活動費用の補助や事務作業の効率化など、抜本的な対策が求められる」と述べています。
日本の教育の未来を守るためには、こうした問題に真剣に取り組み、教師が安心して教育活動に専念できる環境を整備することが不可欠です。