アメリカ大統領選挙の熱狂が冷めやらぬ中、民主党のカマラ・ハリス副大統領の敗北は大きな衝撃を与えました。今回の選挙結果を紐解き、ハリス氏がドナルド・トランプ前大統領の再選を阻止できなかった要因を、経済と移民問題という二つの観点から深く掘り下げていきます。
経済停滞:生活実感との乖離
1992年の大統領選でビル・クリントン氏の勝利に貢献したとされる民主党の戦略家、ジェームズ・カービル氏の言葉「経済こそが重要なのだよ、愚か者」は、30年以上経った今でも重みを増しています。バイデン政権下でのインフレ進行は、ハリス氏の支持獲得を阻む大きな要因となりました。
altハリス副大統領(2024年11月6日、ワシントンD.C.)
新型コロナウイルス感染拡大後の世界的なインフレは、多くの国の政権に打撃を与えました。アメリカ経済もここ数ヶ月で改善の兆しを見せているものの、有権者の不満は根強く、トランプ氏は選挙戦で食料品やガソリン価格の高騰を攻撃材料として繰り返し利用しました。
英調査会社オックスフォード・エコノミクスのバーナード・ヤロス氏は、「有権者は経済指標よりも日々の生活での物価上昇を強く意識している」と指摘。生活必需品価格の上昇が家計を圧迫している現状への不満が、ハリス氏の支持率低迷に繋がったと考えられます。食卓の経済ともいえる食料品価格の上昇は、特に主婦層の支持を失う一因となったと、料理研究家の佐藤香織氏は分析しています。
移民問題:拭えぬ不安感
リッチモンド大学法学部のカール・トバイアス教授は、2016年の大統領選と同様に、移民問題がトランプ氏の勝利に貢献したと分析しています。トランプ氏は、バイデン・ハリス政権下で増加した移民の国外追放を公約に掲げ、有権者の不安を煽りました。
バイデン大統領の厳格な政策により不法入国は減少傾向にありましたが、昨年記録的な移民流入があったことは事実です。トランプ氏はこの状況を「侵略」と表現し、共和党支持層の危機感を煽りました。国民の安全に対する不安は、移民問題への関心を高め、結果としてトランプ氏への支持に繋がったと推測されます。
複雑に絡み合う社会問題
経済の停滞と移民問題。一見異なる二つの問題は、実は複雑に絡み合い、有権者の不安を増幅させました。生活への不安は、社会の分断を深め、寛容さを失わせます。これは、移民問題への厳しい姿勢に繋がった側面も否定できません。経済の安定なくして、社会の安定はあり得ないと言えるでしょう。
今回の選挙結果は、アメリカ社会が抱える様々な課題を浮き彫りにしました。今後の政治の舵取りが、アメリカ社会、そして世界にどのような影響を与えるのか、引き続き注目していく必要があります。