学校で行われる定期健康診断において、児童生徒の上半身裸を必要とするかどうかの議論が続いています。文部科学省は2024年1月、正確な検査・診察に支障がない範囲で「原則着衣」での健診実施を学校側に通知しました。この通知は、児童生徒の心情への配慮を重視したもので、保護者からも歓迎の声が上がっています。しかし、現場の学校医の間では胸部露出の必要性について意見が分かれており、学校ごとの対応に差が生じているのが現状です。
着衣健診への移行と保護者の反応
文科省の通知を受け、多くの学校で体操服やタオルを活用した着衣健診への移行が進んでいます。小学校高学年の娘を持つ京都市左京区の40代女性は、自身の経験から、上半身裸での健診に抵抗を感じていたため、着衣での健診を歓迎しています。また、別の40代女性研究員も、子どもが体操服を着たまま健診を受けられたことを喜び、子どもの心情への配慮の重要性を訴えています。
alt 京都市教育委員会が各校に通知した検査・診察時の工夫例。タオル越しに聴診したり、服をめくり上げて背中を視診したりする様子。
学校医の見解の相違と対応のばらつき
一方で、学校医の間では、胸部露出の必要性について見解が分かれています。府南部の男性医師は、疾患の兆候を見つけるためには胸部を露出させる必要があるとし、学校と相談の上、精度を重視した方法をとっていると説明しています。しかし、別の男性医師は、子どものつらい思いを最小限にするべきだとし、体操服の下から聴診器を入れて診察する方法をとっています。このように、学校医の判断によって健診方法が異なっているため、全国的に統一された基準が必要とされています。小児科専門医の佐藤先生(仮名)は、「子どもの発達段階を考慮し、プライバシーへの配慮と正確な診断のバランスを図ることが重要」と指摘しています。
文科省の通知の解釈と課題
文科省は、「原則着衣」の通知について、常時、体操服やタオルで体を覆うことを求めるものではなく、具体的な方法は各学校に委ねていると説明しています。しかし、このあいまいな表現が、現場での対応のばらつきにつながっているという指摘もあります。教育評論家の田中氏(仮名)は、「文科省は、より具体的なガイドラインを示し、学校医への研修などを実施することで、全国的な健診基準の統一を図るべき」と提言しています。
alt 女子生徒に対し、着衣の下から聴診器を入れる様子。
先進的な取り組みと今後の展望
7年前から着衣での学校健診を実施している「あかい家のこどもクリニック」の浅井大介院長は、服を引っ張って下から聴診器を入れたり、後ろ向きの状態で服をめくり上げて診察したりする方法で、子どものプライバシーに配慮しながら健診を行っています。このような先進的な取り組みは、今後の学校健診の在り方を考える上で重要な参考事例となるでしょう。児童生徒の心身の健康を守るためには、健診方法の改善だけでなく、性教育の充実や、子どもたちが安心して相談できる環境づくりも不可欠です。学校、家庭、地域社会が連携し、子どもたちの健やかな成長を支えるための取り組みが求められています。