日本では「法の支配」よりも「人の支配」がまかり通っている、と言われることがあります。これは一体どういうことでしょうか?講談社現代新書『現代日本人の法意識』を参考に、現代日本人の法意識の現状と課題を探っていきましょう。
江戸時代から続く「お上意識」の影響
江戸時代の日本では、法は支配のための道具であり、民衆には知らされるべきではないとされていました。「民は由らしむべし、知らしむべからず」という言葉が象徴するように、法は統治者側のものであり、民衆はそれに従うのみ、という意識が根付いていました。民事の比重は軽く、刑事についても「公事方御定書」は秘密法とされ、広く知られることはありませんでした。個人の権利という概念も未発達で、法曹や法学も未熟だったと言えるでしょう。
江戸時代の法廷を描いたイメージ図
明治維新後の近代法導入と課題
明治時代になり、西洋の法制度が急速に導入されました。しかし、ローマ法以来の長い歴史を持つ西洋と比べ、日本の近代法の歴史は浅く、法意識の根付き方も異なっています。法制度は整備されたものの、人々の意識の中に「法の支配」が真に定着したと言えるでしょうか?
例えば、児童文学『不思議の国のアリス』の終盤には、ハートの女王と王による裁判の場面が登場します。驚くべきことに、作中の少女アリスは、陪審員や裁判所侮辱といった言葉を知っており、裁判の進行についても一定の理解を示しています。これは1865年、江戸時代末期のイギリスで出版された作品です。当時のイギリスでは、子供でも法や裁判についてある程度の知識を持っていたことがうかがえます。
現代日本人の法意識:アリスとの比較
では、現代の日本の子供たちはどうでしょうか?アリスと同じ年齢、あるいはもっと上の年齢でも、彼女ほどの法知識を持っている子供は少ないのではないでしょうか。 法教育の不足もさることながら、社会全体に「法の支配」という意識が浸透していないことが原因の一つと考えられます。
不思議の国のアリスの裁判シーンを描いたイメージ図
法学者の佐藤一郎教授(仮名)は、「日本人はルールを守るという意識は高いものの、それが法に基づいているという認識は薄い」と指摘します。これは、江戸時代からの「お上意識」の名残とも言えるでしょう。
法の支配を実現するために
真の「法の支配」を実現するためには、法制度の整備だけでなく、人々の意識改革が必要です。法教育の充実はもちろんのこと、社会全体で法の重要性を認識し、尊重する文化を醸成していくことが不可欠です。一人ひとりが「法の支配」の意味を理解し、実践していくことで、より公正で民主的な社会を築くことができるはずです。
まとめ
『現代日本人の法意識』を参考に、日本の法意識の現状と課題について考察しました。江戸時代からの「お上意識」の影響や近代法導入後の課題を踏まえ、真の「法の支配」を実現するために、私たち一人ひとりができることを考えていく必要があるでしょう。