参院選での歴史的大敗にもかかわらず、石破茂首相がその職を続投する意向を表明したことは、永田町内外で大きな波紋を広げています。ジャーナリストの山田厚俊氏は、「国政選挙で不信任の審判を受けたにもかかわらず、『いつ自然災害が起きるか分からないから続けたい』といった発言は、まさに開いた口が塞がらない」と指摘しています。本稿では、この一連の動きに見られる「違和感」と、それが示す民意の乖離について深く掘り下げていきます。
参院選大敗後の首相会見に見る「責任」の齟齬
参院選で大敗した翌日の7月21日、石破茂首相(自民党総裁)は記者会見で首相続投の理由を「我が国は今、米国の関税措置あるいは物価高、明日起こるかもしれない首都直下型地震あるいは南海トラフ、そのような自然災害。そして戦後最も厳しく複雑な安全保障環境といった国難ともいうべき厳しい状況に直面をいたしております。今、最も大切なことは国政に停滞を招かないということ」と説明しました。さらに、同28日に行われた自民党両院議員懇談会でも、「責任を果たしていきたい」と自民党所属議員に理解を求めました。
参院選大敗後、首相官邸で記者団の取材に応じる石破茂首相。国民の不信任を受けた後の続投表明について説明する様子。
しかし、国政選挙で明確な敗北を喫し、国民から不信任の審判を受けたにもかかわらず、「責任を果たす」として続投を表明する姿勢には、根本的な矛盾がはらんでいます。もし「いつ自然災害が起きるか分からない」という理由で政権を継続できるのであれば、歴代のどの首相も途中辞任が許されないことになってしまいます。参院選が示した民意は、「石破政権はノー」という明確なものでした。昨秋の衆院選で与党が過半数割れ(ハングパーラメント)となり、今回の参院選でも再び与党は過半数に届きませんでした。これは、2009年の政権交代以来となる衆参両院での過半数割れという異常事態であり、国民の不満と不信の表れに他なりません。
国政選挙は「最大の株主総会」:民意の示すもの
国政選挙は、有権者が政治に対して審判を下す「最大の株主総会」に例えることができます。有権者、すなわち「株主」は、経済発展、外交・防衛の強化といった国家戦略、あるいは年金の安定や減税といった「自分への配当」など、多岐にわたる視点から各党の公約を評価し、一票を投じます。現政権が信頼できると判断すれば与党に投票し、不信感を抱けば野党に期待して票を投じるのです。
今回の参院選において、特に焦点となったのは、物価高対策や消費税減税など、国民の「苦しい懐事情をどうするのか」という経済政策でした。
物価高対策と「ばら撒き」批判:信頼を失った政策転換
6月11日の党首討論では、国民民主党の玉木雄一郎代表が石破首相に対し、「選挙の時に現金を配るのか。上振れた税収は自民党のものでも公明党のものでもない」と鋭く指摘しました。これに対し石破首相は「税収が自民党、与党のものだと思ったことは一度もない。そのような侮辱をやめていただきたい」と血相を変えて反論しました。
しかし、そのわずか2日後の13日、石破首相は物価高対策として、夏の参院選における自民党の公約に国民1人あたり2万円の給付を盛り込むと表明しました。さらに、子どもと住民税非課税世帯の大人には1人2万円を加算するとしました。このような首相の姿勢は、以前の「ばら撒きではない」という主張と食い違い、まさに「選挙の際のバラ撒き公約」と見なされました。結果として、「何をやりたい政権なのか全く見えてこない」「信頼できない」という評価につながり、国民の政権に対する不信感を決定的にする要因となったのです。
今回の石破首相の続投表明と、それに至るまでの言動は、国政選挙で示された国民の意思と、政権運営の「責任」に対する認識との間に大きな隔たりがあることを露呈しています。国民の期待を裏切るような政策転換や、敗北を認めないかのような姿勢は、民主主義国家における政権のあり方そのものに疑問を投げかけるものです。国民の「声」に真摯に耳を傾け、その信頼を取り戻すことが、今後の日本政治における喫緊の課題と言えるでしょう。
参考資料
- 共同通信社
- プレジデントオンライン (PRESIDENT Online)
- Yahoo!ニュース