北海道で、ヒグマ駆除をめぐる新たな動きが波紋を広げている。自治体からの駆除要請に、ハンターたちが応じない事態が発生しているのだ。一体何が起きているのか、背景と現状を詳しく見ていこう。
ハンターの苦悩:正当防衛のはずが…
事の発端は、2018年に砂川市で起きたヒグマ駆除事件だ。市からの依頼を受け、警察官の立ち会いのもとヒグマを駆除したハンターの男性が、銃弾が住宅に届く恐れがあったとして猟銃所持許可を取り消された。男性は、土手の高低差を考慮し、安全を確認した上での発砲だったと主張。現場に同行した市職員や警察官も当初は問題視していなかった。しかし、2カ月後に刑事事件として取り調べを受け、許可が取り消されるという事態に発展した。男性は処分の取り消しを求め提訴、一審では勝訴したが、二審で逆転敗訴。現在、上告中だ。
砂川市のヒグマ駆除の様子
この判決は、ハンターたちの間に大きな不安と怒りを広げた。「正当防衛のための駆除が、逆に自分たちの生活を脅かす」という声が上がり、北海道猟友会は自治体からの駆除要請に原則応じない方針を固めつつある。
迫りくるクマの脅威:増加する人身被害
一方、北海道ではヒグマによる人身被害が増加の一途を辿っている。2023年には、幌加内町で釣り人がヒグマに襲われたとみられる事件が発生。また、福島町では消防隊員がヒグマに襲われ、近くで大学生の遺体が見つかるという痛ましい事件も起きた。環境省のデータによれば、2023年度のクマの出没件数は過去最多を更新。人身被害も増加しており、深刻な状況となっている。
専門家の見解
野生動物保護の専門家、山田一郎氏(仮名)は、「ヒグマの生息域拡大や餌不足などが、人里への出没増加につながっている」と指摘。「ハンターによる駆除は、個体数調整という側面だけでなく、人身被害を防ぐ重要な役割も担っている」と語る。
駆除をめぐる課題:高齢化と報酬の低さ
ヒグマ駆除をめぐっては、ハンターの高齢化や報酬の低さといった課題も指摘されている。ベテランハンターの減少は、駆除の効率低下につながる恐れがある。また、低い報酬では、若い世代のハンター育成も難しい。
ヒグマの足跡
今後の展望:共存への道を探る
ヒグマと人間の共存は、容易な課題ではない。しかし、ハンターの安全と生活を守りつつ、人身被害を防ぐためには、行政、専門家、地域住民が一体となって解決策を探る必要がある。駆除だけでなく、ヒグマの生息域管理や住民への注意喚起など、多角的な対策が求められている。
北海道の自然と人々の安全を守るために、ヒグマ問題への早急な対応が待たれる。