危険運転致死傷罪の適用難しさ:時速100キロ超でも「過失」となるケースとは?

近年、重大な交通事故が発生しても、危険運転致死傷罪が適用されないケースが注目を集めています。この記事では、危険運転致死傷罪の適用要件と、なぜ時速100キロを超えるような事故でも「過失」と判断される場合があるのか、専門家の見解を交えながら解説します。

なぜ時速100キロ超でも「過失」になるのか? 埼玉県川口市の事例

2024年9月、埼玉県川口市で痛ましい事故が発生しました。一方通行を逆走してきた車が時速100キロ超で走行中の車に激突、運転していた51歳の男性が亡くなりました。逆走車の運転手は飲酒運転の状態でしたが、検察は危険運転致死傷罪ではなく、酒気帯び運転と過失致死の非行内容で家裁送検しました。

埼玉県川口市で発生した交通事故現場の様子埼玉県川口市で発生した交通事故現場の様子

元検察官で弁護士の西山晴基氏は、この判断の背景に、道路交通法における「通行禁止道路」の定義があると指摘します。事故現場の道路は「二輪を除く」一方通行であり、これは法令上、危険運転致死傷罪の適用要件である「通行禁止道路」には該当しない可能性があるというのです。

弁護士・西山晴基氏弁護士・西山晴基氏

さらに、危険運転致死傷罪の要件である「進行を制御することが困難な高速度」についても、西山氏は、事故現場が直線道路であったことから、速度が速くても制御困難な状態とは認定しにくいと分析しています。

法律の曖昧さが招く問題点

交通問題評論家で元弁護士の加茂隆康氏は、危険運転致死傷罪の構成要件自体が曖昧であることが問題だと指摘します。常識的に考えて制御困難な速度であっても、法律の解釈によっては危険運転と認められないケースがあるため、法改正の必要性を訴えています。

法令による通行禁止道路の標識法令による通行禁止道路の標識

危険運転致死傷罪とは? 1999年の東名高速事故を契機に成立

危険運転致死傷罪は、1999年に東名高速道路で発生した痛ましい事故を契機に成立しました。飲酒運転のトラックが乗用車に追突し、後部座席の幼い二人の命が奪われたこの事故は、社会に大きな衝撃を与えました。

交通問題評論家・加茂隆康氏交通問題評論家・加茂隆康氏

この法律は、悪質な運転による交通事故を厳しく罰するために制定されましたが、その適用範囲については現在も議論が続いています。

まとめ:より明確な法整備と厳正な適用に向けて

重大な交通事故を防ぐためには、危険運転致死傷罪の構成要件をより明確化し、厳正に適用していく必要があります。また、ドライバー一人ひとりが交通ルールの遵守と安全運転を心がけることが不可欠です。