プレミア12出場、台湾先住民選手の名前表記問題:日本メディアに正しい呼称を求める声

台湾で開催されたプレミア12予選を皮切りに、東京での2次リーグへと進出した台湾代表。世界一を目指す彼らの戦いに注目が集まる中、ある選手の氏名表記をめぐり議論が巻き起こっています。台湾の先住民族パイワン族出身の強打者、吉力吉撈・鞏冠(ギリギラウ・コンクアン)選手。日本メディアでは「キチリキキチロウ・キョウカン」と紹介されることが多いこの名前、実はパイワン語の発音とは大きくかけ離れているのです。

台湾先住民のアイデンティティと名前の由来

台湾には政府認定の16の先住民族が存在し、パイワン族はその中でも2番目に人口が多い民族です。吉力吉撈・鞏冠選手は、2022年と2023年に台湾プロ野球の本塁打王に輝くなど、実力派選手として知られています。彼はかつて「朱立人」という漢族風の名前を使用していましたが、2019年に米マイナーリーグに所属していた際に、自身のルーツであるパイワン語の発音に基づいた現在の名前に変更しました。

吉力吉撈・鞏冠選手のバッティング姿吉力吉撈・鞏冠選手のバッティング姿

「鞏冠」は家族名、「吉力吉撈」は家族内での立場を示す言葉で、それぞれパイワン語の音に近い漢字が当てられています。名前の変更に際し、吉力吉撈・鞏冠選手は「家族の力を借りて頑張りたい。世界にパイワン族の姿を見せたい」と語っており、名前には彼の強いアイデンティティが込められていることが分かります。

正しい名前の呼びかけと、その背景にある歴史

台湾原住民族青年公共参与協会をはじめとする先住民団体は、日本メディアに向けて「ギリギラウ・コンクアン」という正しい呼称を使用するよう求める声明を発表しました。漢字をそのまま日本語読みした「キチリキキチロウ・キョウカン」では、パイワン語の響きが全く伝わらないというのが彼らの主張です。

この背景には、台湾先住民が長年抱えてきた苦難の歴史があります。日本統治時代には日本名、戦後の国民党独裁時代には漢族名を強制され、就職など様々な場面で差別を受けてきました。2016年に蔡英文総統(当時)が先住民への謝罪を表明したことを契機に、状況は少しずつ改善しつつあります。2024年5月には、先住民の言語による氏名を戸籍にアルファベットで単独表記できるよう法改正も行われました。

名前は“祝福”:文化尊重への願い

台湾原住民族青年公共参与協会のサボアン・バニンチナン理事長は、「名前は、この世に生まれて最初に与えられた“祝福”」と述べ、正しい名前の呼称は文化尊重の第一歩であると強調しています。今回の件は、台湾先住民の歴史や文化について理解を深める良い機会となるでしょう。

プレミア12の試合風景プレミア12の試合風景

世界に羽ばたく吉力吉撈・鞏冠選手への応援

プレミア12という国際舞台で活躍する吉力吉撈・鞏冠選手。彼のプレーだけでなく、名前の由来や台湾先住民の歴史にも目を向けてみると、応援にもより一層力が入ることでしょう。世界にパイワン族の姿を見せたいという彼の願いが叶うよう、今後の活躍に期待が高まります。