死刑。それは人が犯した罪に対し、自らの命で償う究極の刑罰です。日本では絞首刑によって執行されますが、世界では死刑廃止・停止の流れが主流となっています。国際社会から厳しい目が向けられる中、私たちは改めて「国家による死刑」という制度と向き合う必要があるのではないでしょうか。この記事では、漫画家・一之瀬はち氏が実際に死刑執行に立ち会った刑務官に取材した漫画『刑務官が明かす死刑の話』を基に、日本の死刑制度の現状、執行までの過程、そして刑務官の葛藤に迫ります。
死刑執行までの道のり
刑務官の仕事は、塀の中の治安維持、受刑者の更生指導、そして死刑執行への立ち会いなど、多岐に渡り、非常に重い責任を伴います。一之瀬氏は、刑務官との出会いを通して、普段知ることのない刑務所内の実態、特に死刑という重いテーマを伝える必要があると感じ、取材を決意しました。取材に応じてくれたのは、実際に死刑執行に立ち会った経験を持つM刑務官です。M氏は大学卒業後、刑務官試験に合格し、地方刑務所、拘置支所勤務を経て、現在は某拘置所で勤務しています。刑務官は日頃から刑法・刑事施設法など様々なルールに則って職務を遂行しますが、死刑に関わる刑務官には、さらに厳しいルールが課せられるといいます。
刑務官の厳しいルール
刑務官はなぜ罪に問われないのか
死刑執行のボタンを押すのは刑務官ですが、彼らは罪に問われることはありません。これは刑法第35条「法令又は正当な業務による行為は罰しない」に基づき、死刑執行が正当行為とされているためです。つまり、ボタンを押す行為も「業務上の行為」とみなされ、罰せられないのです。
死刑執行のボタン
これは警察官の発砲や、被疑者確保のための家宅侵入、司法解剖など、他の職業にも見られる「正当行為」の例と同様です。M刑務官は、「命に関わる職業は法律によって守られている」と語っています。 死刑囚は判決後、いつ執行されるか分からない不安な日々を過ごします。M氏によると、死刑執行の言い渡しにも暗黙のルールがあるといいます。執行は当日の朝9時までに言い渡され、即日執行。3~4人の刑務官が死刑囚の居室に赴き、宣告を行うのが決まりです。しかし、このルールが予期せぬトラブルを招いたケースもあるといいます。
死刑囚への告知
死刑執行の現場と刑務官の葛藤
死刑執行は、刑務官にとって精神的な負担が大きい任務です。「死刑囚の人権を守る」という観点から、執行に関わる刑務官の精神ケアの必要性も指摘されています。例えば、著名な犯罪心理学者のA博士は、「死刑執行に携わる刑務官は、極度のストレスに晒されるため、定期的なカウンセリングやメンタルヘルスサポートが不可欠である」と述べています。死刑という制度の是非は、今後も議論が続くでしょう。しかし、刑務官たちの葛藤、そして彼らが背負う重責を知ることで、私たちはより深くこの問題を考えることができるのではないでしょうか。 この記事では、死刑執行までの過程や刑務官の葛藤について触れました。後編では、刑場の様子や、執行に立ち会う刑務官の選定基準、そして刑務所で囁かれる怪談など、さらに踏み込んだ内容をお届けします。