EC市場の巨人、アマゾン。消費者に便利なショッピング体験を提供する一方で、その舞台裏では出品者たちが厳しい低価格競争に晒されている実態があります。公正取引委員会によるアマゾンジャパンへの立ち入り検査を機に、その過酷な競争の実態と、出品者が抱える苦悩に迫ります。
カートボックス獲得競争:低価格の罠
アマゾンの商品ページでは、同一商品を扱う複数の出品者の価格情報が一目で比較できるようになっています。その中で最も優位な条件を提示する出品者は、「カートボックス」と呼ばれる購入ボタン付きの枠に表示されます。このカートボックスを獲得することが、売上を大きく左右するため、出品者たちは熾烈な価格競争に巻き込まれるのです。
アマゾン創業者、ジェフ・ベゾス
日本のネット通販関係者によると、カートボックスを獲得するには、限界ギリギリまで価格を下げる必要があるといいます。利益を削ってでも価格競争に勝たなければ、消費者の目に触れる機会すら失ってしまうのです。この構造的な問題は、多くの出品者を苦しめています。
アマゾンの圧力:常に最低価格を求めて
米議会の調査によると、アマゾンは競合他社の価格を常に監視し、自社サイトの価格が高い場合は出品者に値下げを要求していることが明らかになっています。自動価格設定ツールの利用を推奨するなど、出品者の価格決定権を事実上コントロールしているとの指摘も出ています。
2022年秋、カリフォルニア州の司法当局は、競争法違反でアマゾンを提訴した。訴状には、出店者がアマゾンからどんな要求をされているかが詳細に記されている (写真はアマゾンジャパン)
さらに、迅速な配送もカートボックス獲得の重要な要素です。そのため、多くの出品者は手数料を支払ってアマゾンの物流サービスを利用せざるを得ない状況となっています。
巨大なアマゾン本体との競争:勝ち目のない戦い
出品者にとっての苦難は価格競争だけではありません。アマゾン自身も多くの商品を販売しており、巨大な購買力を持つアマゾン本体と価格で競争することは、多くの出品者にとって不可能に近い課題となっています。ある出品者は、「アマゾンに勝てるのは、その商品を作っているメーカーだけ」と嘆きます。
消費者のための低価格の裏側:出品者の犠牲
消費者が享受する低価格の裏側には、出品者たちの苦しい現実が隠されています。身を削るような価格競争、アマゾンからの圧力、そして巨大なアマゾン本体との競争。これらの困難に立ち向かいながら、出品者たちは日夜努力を続けています。
公正取引委員会の調査によって、アマゾンの商慣行の是非が問われることになります。今後の動向が、EC市場の未来を大きく左右することは間違いありません。