透析は命を繋ぐための大切な医療ですが、一方で患者にとって大きな負担となるのも事実です。今回は、元NHKプロデューサー林新さんが透析を中止するという選択をした経緯とその背景にある日本の透析医療の現状について、ノンフィクション作家である妻・堀川惠子さんの著書『透析を止めた日』を元に深く掘り下げていきます。
元NHKプロデューサーの決断:意識あるまま透析中止を希望
林さんは遺伝性難病「多発性嚢胞腎」により腎機能を失い、10年以上にわたり血液透析を受けてきました。しかし、病状の悪化に伴い、意識があるうちに透析を中止したいという意思を表明。この決断に、担当医は驚きを隠せず、前例がないと戸惑いを露わにしました。堀川さんはその時の緊迫した状況を鮮明に描写しています。
林さんの書斎
林さんの強い意志は、意識がないまま透析を続けることへの拒絶感から生まれたものでした。この出来事は、日本の透析医療における患者の自己決定権の尊重という課題を浮き彫りにしています。 医療倫理の専門家である佐藤先生(仮名)は、「患者の意思を尊重することは医療の基本であり、透析治療においても例外ではない」と指摘しています。
透析大国ニッポン:患者の苦しみと医療制度の歪み
日本は世界でも有数の透析大国であり、約35万人が透析治療を受けています。週3回、1回4時間もの透析は、患者にとって肉体的にも精神的にも大きな負担となります。
透析のイメージ
太い注射針の痛み、血管の収縮、そして災害時における透析への不安など、患者は常に様々な苦痛を抱えています。堀川さんは、透析患者にとって最も辛いのは「心の痛み」だと語っています。 他者には理解されにくい苦しみを抱えながら、林さんは番組制作という激務をこなし、常に前向きな姿勢を貫いていました。
腎移植と再発:透析からの解放と更なる苦しみ
林さんは透析から解放されるため、実母から腎臓の提供を受け移植手術を受けました。しかし、移植腎の機能も徐々に低下し、9年後には再び透析生活を送ることになります。再発後の透析は以前よりも辛く、耐えられない日もあったといいます。堀川さんは、林さんが経験した壮絶な痛みを克明に綴っています。そして、透析を中止して約1週間後、林さんは静かに息を引き取りました。
林さんの最期から考える:私たちにできること
林さんの闘病生活と最期は、私たちに多くの問いを投げかけています。透析医療の現状、患者の自己決定権、そして人生の尊厳とは何か。 次回の記事では、年間約3万5000人が亡くなっているという透析患者の現状と、透析治療の改革に必要なことについて考えていきます。