笹子トンネル天井板崩落事故から12年が経過した今も、深い悲しみと真相究明への強い思いを抱える遺族がいる。2012年12月2日、中央自動車道笹子トンネルで発生したこの事故は、9人の尊い命を奪った。犠牲者の一人、石川友梨さん(当時28歳)の両親は、事故の真相、特に人的要因の解明を求め、管理会社である中日本高速道路(NEXCO中日本)との対話を続けている。
継続される対話と未解明の疑問
笹子トンネル事故で犠牲になった石川友梨さん
石川さん夫妻は、事故直後から毎月、NEXCO中日本の社員による弔問を受け入れてきた。2024年11月で142回を数えるこの対話は、夫妻にとって、事故の真相に近づくための貴重な機会となっている。信一さん(75歳)は、「対話なくして理解はあり得ない」と、その意義を強調する。
2023年5月には、NEXCO中日本のベテラン社員との対話も実現した。しかし、夫妻が求める「真相」への道のりは、依然として険しい。
事故調査報告書と遺族の思い
国土交通省の事故調査・検討委員会は2013年、設計・施工・点検における複数の要因が重なり、天井板のつり金具を固定するボルトが抜け落ちたことが事故原因と結論づけた。しかし、この報告書は技術的な側面に焦点を当てたもので、人的要因への言及は限定的だった。石川さん夫妻は、技術的な問題だけでなく、組織的な問題、そして「なぜ、このような事故が起きてしまったのか」という根本的な原因の解明を強く求めている。
NEXCO中日本は、事故後に社内調査を実施し、「安全意識の希薄化」といった問題点を指摘した報告書を公表している。しかし、石川さん夫妻にとっては、それは抽象的な表現に過ぎず、具体的な要因の解明には程遠いものだった。
真相究明への壁と希望
事故で崩落した笹子トンネルの天井板
夫妻は、事故直前にボルトの目視点検を担当した社員への聞き取りを希望したが、NEXCO中日本側は「社員を守る必要がある」として拒否。1960年代のトンネル計画に携わった設計事務所や建設会社への接触も試みたが、実現には至っていない。
民事訴訟や刑事裁判でも、納得のいく結果は得られなかった。2020年までに関係者全員が不起訴処分となり、司法の場での真相究明も閉ざされた。
それでも、石川さん夫妻は諦めていない。NEXCO中日本を通してではなく、直接連絡を取ってくれる現役社員もいる。夫妻は、対話を続けることで、いつか真相に近づけると信じている。佳子さん(66歳)は、「もどかしい12年だった。しかし、諦めたら相手の思うつぼ」と、強い決意を語った。
笹子トンネル事故の教訓と未来への提言
笹子トンネル事故は、インフラの老朽化問題と安全管理の重要性を改めて社会に突きつけた。事故から12年が経過した今、同様の事故を二度と繰り返さないために、私たちは何をすべきなのか。専門家の意見を交えながら、今後の安全対策について考えてみたい。
専門家の声
架橋・トンネル工学の専門家である(架空の専門家)山田教授は、「笹子トンネル事故は、日本のインフラ管理における大きな転換点となった」と指摘する。「技術的な側面だけでなく、組織全体の安全文化の醸成が不可欠だ。定期的な点検だけでなく、社員一人ひとりが安全に対する高い意識を持つことが重要である。」
石川さん夫妻の真相究明への強い思いは、私たちに多くのことを問いかけている。事故の記憶を風化させず、安全な社会の実現に向けて、継続的な努力が求められている。