和歌山県紀の川市で10年前に起きた小学生殺害事件。殺害された森田都史くんの父親、悦雄さん(76)は、今も深い悲しみの中で生きています。加害者からの謝罪も賠償もないまま、悦雄さんは新たな制度を利用し、初めて自分の思いを加害者に伝えることを決意しました。
心情伝達制度とは?被害者と加害者をつなぐ新たな橋渡し
事件から10年近く、加害者である中村桜洲受刑者(32)からの謝罪は一度もなく、約4400万円の賠償金も支払われていません。悦雄さんは、中村受刑者が事件をどのように捉えているのかを知りたい、自分の思いを伝えたいという強い願いを抱いていました。そこで、2023年12月から始まった「心情伝達制度」を利用することにしました。
この制度は、刑務官が被害者や遺族の思いを聞き取り、加害者に伝えます。そして、加害者の反応を再び刑務官が被害者側に書面で伝えるというものです。これまで、被害者が加害者に思いを伝えるには、手紙や面会が拒否されるなど、高いハードルがありました。心情伝達制度は、被害者と加害者をつなぐ新たな橋渡しとして期待されています。
森田悦雄さん、自宅近くの空き地で息子を偲ぶ
10か所以上刺された息子…「鬼畜生だと思った」
2015年2月、当時小学5年生だった都史くんは、自宅近くの空き地で刃物で10か所以上刺され、命を奪われました。「体はズタズタで見せられない」と告げられた悦雄さんは、息子の無残な姿に言葉を失いました。
2024年9月、悦雄さんは近畿地方のある刑務所を訪れ、刑務官と3時間にわたり面談。加害者への思いを伝えました。「都史君は背中や頭など、約10か所も刺されズタズタの状況であったと聞かされ、鬼畜生だと思った。謝罪の言葉は今もない」
10か所以上刺され、命を奪われた森田都史くん
罪と向き合う機会を…更生への道筋と被害者支援の両立を目指して
心情伝達制度は、被害者の深い悲しみや苦しみを少しでも和らげるための取り組みです。同時に、加害者にとっては、自身の罪と向き合い、反省を深める機会となることが期待されています。犯罪被害者支援の専門家である山田花子氏(仮名)は、「加害者の更生と被害者支援の両立は難しい課題だが、心情伝達制度は、その両方に貢献する可能性を秘めている」と指摘します。今後の展開が注目されます。