日本の教育現場では、教員不足が深刻な問題となっていますが、実は「教師の自腹」という問題も大きな影を落としています。多忙な日々を送る中で、なぜ教師たちは自らの財布を開いてまで、教育活動に必要なものを補わなければならないのでしょうか?本記事では、その実態と背景に迫ります。
教師の自腹、年間40万円超えも…私立校では生徒サービス最優先
公立校では学校運営予算(公費)の管理が厳しく、自腹を切るケースが多いと耳にするかもしれません。しかし、私立校でさえも同様の状況が発生しているのです。都内私立高校で教鞭をとる谷口英治さん(仮名・41歳)は、「機材だけ導入して、あとは教員に丸投げです」と現状を嘆きます。
数年前、授業力向上のため各教室にプロジェクターが導入されました。しかし、DVDプレーヤーやノートパソコン、HDMIケーブルなどの周辺機器はすべて自腹で購入しなければなりませんでした。総額は約25万円。予備校が主催する教員向け研修会の費用も大きな負担となっています。
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私立校の中には領収書精算が可能な学校もありますが、申請しない先生も多いようです。「私立校は転勤がなく、正社員になれば終身雇用が一般的。定年まで勤め続けることを考えれば、数十万円の自腹は長い目で見れば得策」と考える教師が多いとのこと。
さらに近年、私立校ならではの自腹が増加傾向にあります。公立校以上に生徒サービスが重視され、保護者からの評判を気にするあまり、高額な編集ソフトを自腹で購入し、記念DVDを作成・配布する教師が増えているといいます。このような「やりがい搾取」とも言える状況に歯止めがかかりません。
教師の自腹:4つのカテゴリーと衝撃の実態
教職員の4分の3が自腹を切っている――。公立小中学校の教職員1034人を対象とした調査結果をまとめた書籍『教師の自腹』は、教育現場の厳しい現実を浮き彫りにしました。
共著者の一人である教育行政学者の福嶋尚子氏によると、教師の自腹は主に「授業」「部活」「旅費」「弁償・代償」の4つに分類できるといいます。
年間自腹額の最大値は「授業」関連で100万円。安価な文房具から高額なAV機器まで、その内容は多岐にわたります。「部活」関連は最大10万円と少額ですが、スポーツ用具や遠征費など高額になりやすい傾向があります。「旅費」は最大18万2000円で、修学旅行や家庭訪問、校外学習などの交通費・宿泊費が負担となっています。
そして、最大値は8万円と最も少額の「弁償・代償」ですが、その実態は複雑です。給食費や教材費の保護者からの未納分の立て替え、学校備品の紛失・破損による弁償などが挙げられます。夏休み中のプールの漏水事故で教師が弁償させられるケースも。2023年8月には、川崎市立小学校で発生したプールの止水ミスで、教師らに損害額の半額95万円の支払いが命じられた事例も記憶に新しいところです。
教育の質向上のため、自腹問題への抜本的な対策を
教師の自腹問題は、教育の質の低下につながる可能性も懸念されます。より良い教育環境を実現するためには、国や自治体による予算確保、そして学校側による適切な費用負担の仕組みづくりが不可欠です。子どもたちの未来を守るためにも、この問題への早急な対応が求められています。