韓国経済、大統領の「経済楽観論」と市場の現実乖離:戒厳令解除後の課題と構造改革への期待

韓国では歴代大統領が「経済大統領」を標榜してきたものの、大統領が経済に介入すればするほど、経済状況は悪化するという皮肉な現実が存在します。特に尹錫悦大統領の就任以降、この傾向は顕著になっています。経済にとって最も有害な「不確実性」を増幅させている要因とその影響、そして今後の課題について深く掘り下げてみましょう。

尹大統領の経済認識と市場の不安

経済の安定には不確実性の抑制が不可欠ですが、尹大統領は就任以来、数々の不確実性を生み出してきました。その背景には、現実とかけ離れた楽観的な経済認識があります。7-9月期の経済成長率が横ばいとなり、国内外の研究機関が警告を発する中でも、「経済が確実に生き返っている」「そろそろ経済が背伸びをしている」と発言。戒厳令発令で市場が混乱に陥った後も楽観的な見解を崩しませんでした。

韓国の市場の様子韓国の市場の様子

大統領の楽観論に引きずられるように、政府も景気の実態を直視できずにいました。企画財政部は弾劾案可決の直後まで「回復傾向」と発表していましたが、その後ようやく「景気下振れ危険」に言及。このような状況では、効果的な経済政策の立案は困難です。

言葉と行動の不一致が生む不信感

尹大統領は自由と市場、法治を重視する姿勢を強調する一方で、実際には官主導の介入が目立ち、市場の混乱を招いています。ポピュリズム批判を展開しながらも、選挙対策と思しき空売り禁止や金融投資所得税廃止などを突如発表。グローバル投資家からの信頼を失墜させ、官僚からも不安の声が上がっています。市場活性化を約束した翌日に戒厳令を発令するなど、言葉と行動の不一致も市場の不確実性を増大させています。

戒厳令解除後の韓国経済:信用格付けと政治リスク

戒厳令は速やかに解除され、国債市場と国家信用格付けはひとまず守られました。ムーディーズとS&Pは韓国の信用格付けをAAと評価しており、これはG7の英国や日本よりも高い水準です。しかし、格付け機関は政局の混乱が長期化すれば「否定的影響」が生じる可能性を警告しています。フランスでは政情不安を受けてムーディーズが信用格付けを引き下げた事例もあり、韓国も楽観視できません。

韓国銀行韓国銀行

弾劾後の政界では再び陣営間の対立が激化し、選挙対策に終始する動きが見られます。このような状況が続けば、韓国経済にも深刻な影響が出かねません。

繰り返される歴史から学ぶべき教訓

8年ぶりの大統領弾劾訴追は、87年体制の限界を示す「政界通貨危機」と言えるでしょう。97年の通貨危機は、低い生産性や過剰投資といった構造問題への対応が遅れたことが原因でした。その後の構造改革を経て韓国経済は大きく飛躍しましたが、今回の事態は構造改革の必要性を改めて示唆しています。

既得権益を脇に置き、真剣な反省と構造改革に向けた議論を開始することが重要です。この危機を「偽装された祝福」に変え、韓国経済の更なる発展につなげることが求められています。