2025年7月に求人サイトGlassdoorが米国で実施した1000人以上の労働者への調査では、Z世代の68%が「給料や地位が変わらない限り、管理職の道を追求しない」と回答しました。これは若者に野心がないと捉えられがちですが、実態は異なります。Z世代は「キャリア・ミニマリズム」という形で職業的な成功を再定義し、仕事を安定の源と位置づけつつ、従来の仕事以外の場で自身の野心や創造性を追求しようとしているのです。
この新たな仕事観はZ世代が主導していると言えるでしょう。しかし、ミレニアル世代、X世代、ベビーブーマー世代もまた、それぞれ独自の理由からキャリア・ミニマリズムを選択する動きを見せています。このような変化の背景には、企業の昇進制度の機能不全、燃え尽き症候群の増加、そして人生における仕事の位置づけを自らコントロールしたいという強い欲求の高まりがあります。以下では、キャリア・ミニマリズムがZ世代だけでなく、幅広い世代に浸透している具体的な理由を詳しく見ていきましょう。
従来の昇進制度の機能不全
長年にわたり、従業員は「懸命に働き、出世し、プライベートな時間を犠牲にする代わりに長期的な安定を得る」という予測可能なキャリアパスを歩んできました。しかし、この道筋はかつてほど確実なものではなくなっています。現代の企業環境において、昇進制度は多くの点でその魅力を失い、従業員の意欲を削ぐ要因となっています。
報われない努力と責任の増大
昇進が名ばかりで、責任だけが増え、それに伴う昇給がないケースが頻繁に見られます。これは従業員にとって、努力が正当に評価されないという不満につながります。さらに、Gallupの調査によると、仕事に心から没頭している従業員はわずか21%に過ぎず、多くの職場でエンゲージメントの低下が深刻化しています。高収入の企業やリモート勤務の職であっても、以前に比べて雇用の安定性が低下していることも見逃せません。AI(人工知能)の導入が人員削減のきっかけとなり、既存のキャリアパスが混乱する事例も増えています。Glassdoorのチーフエコノミスト、ダニエル・ザオ氏が指摘するように、「いくら努力し、どれだけ成果を上げても、それに見合った報酬を得られていない」と多くの従業員が感じているのです。リーダー職は業務量が増加する一方で、サポート体制が縮小する傾向にあり、経済的な報いが不確実であれば、どの世代の従業員も昇進への魅力を感じにくくなります。
ビジネスパーソンがパソコンの前で作業する様子
副業がもたらす新たな魅力と安定
企業の昇進制度が期待に応えられなくなる中で、多くの人々が新たな選択肢として副業に注目しています。副業は、本業だけでは得られない多様な魅力を提供し、キャリア・ミニマリズムの普及を強力に後押ししています。
世代を超えて広がる副業ブーム
副業を持つ人の割合は、Z世代で57%、ミレニアル世代で48%、X世代で31%に上ります。これは、かつてZ世代特有の傾向と思われていた副業が、今や世代を問わず広く普及していることを示しています。各世代が異なる動機を持つ一方で、副業が提供する本質的な価値は、幅広い層に響いていると言えるでしょう。
副業の主なメリット
副業には、企業という枠組みにとらわれず、自律的に意思決定ができるという大きな魅力があります。また、年に一度の評価を待つことなく、すぐに金銭的な見返りを得られるため、努力が直接的に報われる感覚が強いです。組織の優先事項ではなく、自分個人の興味関心に合致した仕事ができる点も、多くの人々にとって大きな動機となっています。さらに、収入源が多様化されることで、一つの雇用主への依存度を下げ、経済的な安定性を高めることが可能です。
テクノロジーと経済状況が後押し
副業の広がりを加速させているのは、テクノロジーの進化です。デジタルプラットフォーム、AIツール、リモートで働くフリーランサー向けマーケットプレイスなどの登場により、自分のスキルや情熱を生かして新たな収入源を得ることがかつてないほど容易になりました。また、経済がかなり不安定であることも、この傾向の一端を担っています。インフレや金利上昇、断続的に行われる人員削減といった状況下では、多様な収入源を得ることは、もはや選択肢というより、安定を手に入れるための現実的な方策となっています。多くの人にとって副業は、単なる追加の収入源ではなく、本業よりも自身の努力や創意工夫、主体性がはるかに目に見える形で報われる場となっているのです。
結論
キャリア・ミニマリズムは、従来のキャリアパスに対する幻滅と、副業を通じて得られる代替的な収入源や自己実現の魅力によって推進される、現代の仕事観における重要な変化です。これは、特定の世代に限られた現象ではなく、あらゆる世代に共通する、仕事と人生における自身のコントロールを取り戻し、成功を再定義したいという深層的な欲求の表れと言えるでしょう。企業が従業員のニーズに応えられない限り、この潮流は今後も拡大していくと予測されます。





