米大手保険会社CEO射殺事件:犯人はダークヒーロー?アメリカの医療保険制度の闇

アメリカを震撼させたユナイテッドヘルスケアCEO射殺事件。犯人のマンジオーネ容疑者への同情の声、そして彼を「ヒーロー」と呼ぶ人々まで現れる異様な事態に、アメリカの医療保険制度の深い闇が見えてきます。本記事では、事件の背景、アメリカの医療保険制度の問題点、そしてなぜマンジオーネ容疑者がダークヒーロー化しているのかを紐解いていきます。

事件概要と容疑者への同情の声

2024年12月、ニューヨーク・マンハッタンの路上で、大手保険会社「ユナイテッドヘルスケア」のトンプソンCEOが射殺されるという衝撃的な事件が発生しました。逮捕されたのは26歳のマンジオーネ容疑者。裕福な家庭で育ったエリートとされる彼が、なぜこのような凶行に及んだのか。

射殺されたトンプソンCEOとマンジオーネ容疑者射殺されたトンプソンCEOとマンジオーネ容疑者

マンジオーネ容疑者の所持品からは、患者の治療よりも利益を優先する保険業界を批判する文書が押収されました。薬莢には「拒否」「防御」「追放・証言」といった保険業界用語が刻まれていたという報道もあります。驚くべきことに、これらの報道を受け、一部の人々からマンジオーネ容疑者に同情する声、さらには彼を「ヒーロー」と称賛する声まで上がっているのです。オンラインでは弁護費用を募る動きや、関連グッズの販売まで行われています。

アメリカの医療保険制度:高額な保険料と支払拒否の現実

なぜこのような事態になっているのでしょうか?アメリカの医療保険制度には、深刻な問題が山積しています。映画評論家の町山智浩氏によると、以前は既往症を持つ人や低所得者は保険加入を拒否されることが常態化していました。2014年にオバマケアが導入され、国民皆保険が実現したものの、今度は保険金の支払拒否が多発しているといいます。

町山智浩氏町山智浩氏

「健康診断を受けてこなかったあなたの責任」「高額な医療機器を使った」など、保険会社は様々な理由をつけて支払いを拒否します。そのため、アメリカ国民の多くが保険会社に強い不信感を抱いているのは当然と言えるでしょう。統計によると、ユナイテッドヘルスケアの保険金支払拒否率は業界平均の17%を大きく上回る32%にも達しています。(出典:米世論調査会社「KFF」「ValuePenguin」)

町山氏によれば、保険料が高額であるにもかかわらず、十分な保障を受けられないという矛盾が存在します。年間約380万円もの保険料を支払っても、自己負担額が高く設定されているため、結局高額な医療費を支払わなければいけないケースも多いのです。

メディケア改革の壁:政治献金と既得権益

コメディアンのパックン氏は、アメリカの医療保険制度改革の難しさについて言及しています。高齢者向けの公的医療保険制度「メディケア」を拡充し、将来的には全世代を対象とする案が検討されていますが、既得権益を持つ保険業界からの強い抵抗にあっています。メディケアは政治献金を行っていないため、政治家も改革に消極的です。政治献金制度の改革なくして、医療保険制度の改革は実現しないでしょう。

マンジオーネ容疑者のダークヒーロー化:医療保険制度への怒りの象徴

マンジオーネ容疑者の行動は決して許されるものではありません。しかし、彼への同情や支持の声は、アメリカの医療保険制度に対する国民の深い怒りと不満を反映していると言えるでしょう。マンジオーネ容疑者は、行き場のない怒りの象徴として、一部の人々から「ダークヒーロー」視されているのです。

医療保険制度の改革は、アメリカ社会にとって喫緊の課題です。国民の健康と生活を守るため、政治家や関係者は一刻も早く改革に着手する必要があります。