菓子箱の底に多額の現金が入っていた。金貨や米ドル札も手渡された。関西電力首脳陣が高浜原発の立地する福井県高浜町元助役から億円規模の金品を受領した際の様子である。いまどきこんなことが行われていたとは驚きだった。
信用失墜の金品授受の背景から、当事案の複雑怪奇さが浮き彫りになる。金品の返却は、元助役から厳しく叱責されできなかったと関電側は説明する。そこに恫喝(どうかつ)と不条理が横行する社会の深い闇がのぞく。それでも責任ある企業として、金品を社で一括管理し、供託する道もあったであろう。それを成し得なかった関電の責任は厳しく問われなければならない。
関電の不祥事を受けて、すでに大幅に遅れている原発再稼働がさらに遅れると懸念する声がある。だが、関電の金品受領問題と、日本のエネルギー政策の混同は国益を損ねるだけだ。
原発政策に関して日本はいま、世界に類例のない異常で特殊な状況に陥っている。その主な原因は、更田豊志(ふけた・とよし)氏以下、5人で構成する原子力規制委員会(規制委)が専門家集団として世界水準に達しておらず、従って有効に機能していないことだ。
専門家集団として体をなしていないことの具体例は後述するが、原子力に関する国際社会の権威、国際原子力機関(IAEA)の規制委に対する評価は実に厳しい。彼らは平成28年1月に、上級専門家19人から成るチームを12日間にわたって日本に派遣し、規制委および原子力規制庁の評価を実施した。約130ページに上る報告書には、規制委のお寒い現状に鑑(かんが)みて大いなる改善の必要があることなどが率直に記述されている。
規制委は三条委員会として政府も介入できない強い独立性を担保されている。強い権限にはそれに見合う重い責任がある。重大な責任を遂行するには優れた人材が必要だ。IAEAは、しかし、「規制委の人的資源、管理体制、特にその組織文化は初期段階にある」と酷評し、「課された任務を遂行するのに能力ある職員を抱えていない」と斬り込んだ。